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母娘(ははこ)御膳 第33話「聖域」

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「それにしても・・」佐分利学院「夜の修了式」を終え、シャワーの後、二女講師と、タクシー相乗りで居所へ戻った受験生 阿久比 周(あぐい・あまね)は、改めて感嘆したものだった。「本荘(小町)先生って凄いよな。忙しい学院の養護科や病院の診察、それに学会の事とかをこなしながら、その合間に、もう何人もの生徒の童貞を卒業させた」

「そればかりじゃない。夜にそんな事を何度もして、全然表に出ないんだ。完全な治外法権。理事長や役員会だって口が出せない。もしかして、こう言うのを『聖域』て言うんじゃないのかね」その夜も、周の受験対策最後の担当講師 花井 結(はない・ゆい)を同席させながら、結局は明るみに出る事なく、済んで行きそうな気配だった。「中にゃ U18だっているはずだ。下手に表に出りゃ、未成年者福祉法規等違反で、最悪逮捕も有り得るな・・」とここまで想いを巡らせて、周は考えを変えた。「いかん、いかん!俺はまだ受験中やんか。明後日の、N市立大が片付くまでは、集中せんと・・」

そのN市立大 経済学部入試は、2/25(土)。晴天なるも、朝方の冷え込みは厳しく、氷点下近いレベル。日中も、気温の上がりは鈍かった。厚手のパーカーに冬用パンツ、ウォーキング靴の、なるべくリラックスできる服装で、試験に臨む。心身の調子(コンディション)は概ね良好だったが、懸念された理数科のリカバー不足は、やはり不安の残る結果となった。

「安い授業料の公立大で親孝行・・の目論みは、やっぱり、ダメ・・かな?」時折強く吹く西風を受け、そんな想いを抱きながら、周は帰途に就いた。居所に落ち着くと、直ぐにLINEで、色々あったも世話になった、花井 妙(たえ)F・I・T(株)社長、そして、学院最後の担当講師 結と、養護主任 小町に、全ての受験が終わった事を伝えた。

真っ先に返信が来たのは、やはり妙だ。「阿久比君、受験ご苦労様。A大入試は突破したそうね。おめでとう!」 「はい、有難うございます。お蔭様で、何とか進路が見えて、ホットしてますね」 「うんうん。又近く、受験の苦労話とかを聞きたいな。もう知ってるかもだけど、宙(そら)も、A大入試に通ったの。今日は、某公立大入試で、もう帰って来る位・・かな。又近く、励ましてやってくれると嬉しいわ」 「はい、喜んでお受けします。この後、先生方にもお伝えするつもりですが、近く、本社にもご挨拶に行かないといけませんね」

周の言葉に妙は「そう、それ良いね!来週のどこかで、夕方来てくれるかな?」 「はい、予定しておきます。どの辺にしましょうか?」 「そうだね。君も知ってる様に、あたしも忙しくて、予定表見てからでないと、直ぐ返事できないのよ。明日は日曜だけど、そこでも良ければ連絡するわ」 「有難うございます。自分はいいですよ。勿論、週明けでも良いですし」 「うん、分った。なるべく早く知らせたげるからね」 「はい、ご面倒ですが、宜しくお願いします」 「よし。じゃ、今日はこれで」 「はい、失礼します」交信終了。

「貴女も、受験終了お疲れ様!」 「有難う」その夜、宙が帰宅して入浴、夕食の後「母さん、話があるの」居間の長ソファで、TV番組をチェックしている妙の所に、歩み寄って来た。「うん、何かしらね。聞くわ」トレーナー上下姿の宙、ガウンを羽織った妙の右隣に並んで座る。

「実はね・・」宙が切り出す。「周さんとあたしが、同日で受験を終わらせる事ができたから、彼をウチに招いて打ち上げ会みたいな事をしたいと思うの。母さんにも加わって欲しいんだけど、いいかしら?」 「ああ、いいわよ。あたしも、こちらから参加したい位だわ。来週中の適当な所でどうかと思うんだけどね」 「そうだね、良い提案だわ。余り急でも、皆 不都合だったりすると具合が悪いからさ。結姉さんには、内緒の方がいいかな?」 「そりゃ宙ちゃん、親のあたしに預からせてくれないかしらね」 「分った。母さんに任せるわ。それによって、日取りを決めるって事で」 「OK。それで進めよぅ!」その夜遅く、周を交えて相談の結果、3/4(土)の夕方に決まった。

3月も、まだ冬の名残の寒さが残り、結構冷え込む日もあったが「三寒四温」の言葉通り、徐々にだが、春へと向かう気配が感じられ。3日金曜の夕方、周は、夕方前から、正装して佐分利学院の上階、教職員フロアへ赴き、担当だった結や、在学中世話をかけた男女講師数名、それに、同じ階で顔を合わせた小町主任らに、受験終了の挨拶を。次いで、妙の会社を訪ね、上階の社長室にて面会を果たした。

世間一般の挨拶の後、妙は周に「じゃ、明日夕方から、宜しくね。待ってるから」 「はい、こちらこそ、宜しくお願いします。今日は、有難うございました!」手短かに済ませ、早めの帰途に就こうとした時、同じ階のEV前で、外務から戻った 伊野初美(いの・はつみ)とも顔合わせ。

「主任、お疲れ様です。お邪魔してました!」 「ああ、来てたんだ。受験、全部終ったんだってね。A大合格おめでとう!」 「有難うございます!ほぼA大入学で決まりそうです」 「そう、あそこは良い大学よ。叶えば、あたしも行きたかったわね。残念ながら合格じゃなかったけど」 「そうでしたか、マジ残念。ええ、こうなったら、自分が、主任の分まで頑張ってご覧に入れますよ」 「ふふ、楽しみにしてるわ。社長には、会った?」 「ええ、さっきご挨拶して来ました」 「そりゃいいわ。近くきっと、良い事があるわよ」初美はそう言い、華やかな笑顔を見せた。周は「好い感じの笑顔。こりゃ、期待・・かな」と、秘かに心を弾ませた。それは勿論、妙の方だったのだが。

翌4日土曜も、晴天の一日。「合格おめでとう!」周はこの日中、試験休暇をもらっていたバイト先の飲食店に出向き、昼食をご馳走になりながら、店主と今後の話し合いをした。日付が変わるまでの夜間、週三、四日の勤務で基本線は落ち着いたが、もしも週末抜ける必要がある場合は、事前に届け出る事にした。「もう少し、日程を詰めた方が良いよな」 「はい、そうですね。それでお願いします」期待を持って、待っていてくれた店主の厚意は、周の心を打った様だ。

バイト先の往復での、平装を正装に替え、自転車で花井邸に赴く。既に暗く、予定より早い5:30pm少し前、到着。「宜しく、お願いします!」 「はーい、待ってたわよ。今夜は、好い時間にしようね」実は、邸内は妙と周だけでなく、宙も帰っていたのだが、母娘は示し合せて、夜の途中から合流する手筈にしていた。宙、先に早めの夕食を済ませ、周が来訪した時には、母に続き、秘かに入浴していたのだ。

「出前のピザが良かったわね」 「はい、そうですね。有難いです!」注文の品を受け取り、彼は最初の一杯のみ、赤ワインの祝杯を賜る。海草サラダは、妙のお手製。その他、果物とコーヒーが続き、二人は、受験の日々を振り返る。妙は、かつて受験した頃の思い出話だ。

一時間余り後、周は「お風呂行っといでよ!」妙から入浴を促される。「はい、有難うございます」一礼して応じ、広い浴室へ。身体を洗い、洗髪を経て、大きい浴槽に入っていると、片づけを終えた妙も合流し。「ふふ、又、一緒のお風呂で楽しいわ」 「・・ですね。お年始の事が思い出されます」笑い合いながら、互いの背を流したり、ほんの少しの、浴槽での悪戯とかで半時余りが過ぎる。

入浴を終え、バス・ローブを纏い、居間でTV番組をチェックする周の所へ「さあ、もっといい事があるわよ」の一言と共に現れた妙。その艶姿に、彼は又も揺れる。「やっぱり・・」の一方で「期待通り・・」の、些か愚かしい願望だ。黒下着上下にベビー・ドールの様なミニコス、ガーター・ベルトも備えた夜の妙。「娘も良いけど、母親も素敵だ!」又もや、あの想いが脳裏に渦巻く。

「いかん・・でも、やっぱり、好い!」右隣に並び座る妙に、周は心を奪われ始めていた。「周・・」妙が声かけ。「はい・・」返すと「小町さんに、夜の修了式をしてもらったでしょう。あの聖域で・・」 「ええ、そうです。嘘はつけませんね」 「君に、嘘は似合わないわ。した事を認めれば、それでいい。でも『聖域』なら、ここもそうよ」 「・・ですね」その言葉を聞きながら、二人は唇を合せて行く。

同じ頃・・「周さん、見てらっしゃい。覚えてらっしゃい。母と好い事ができるのも、途中までよ。そこから先は、貴方には分らない。その先の物語は、あたしが決めるのよ。今夜の出来事は、あたしが鍵を握るのよ」そう呟いて、頃合いを窺う宙は、姿見の前に立つ。着替えたのは・・これまで誰にも見せた事のない、妖精の様な、妖しくも美しい姿であった。
(つづく 本稿はフィクションであります。次回は5/25木曜以降に掲載予定です)

今回の人物壁紙 希島あいり
久石 譲さんの今回楽曲「ビュー・オブ・サイレンス(View of Silence)」下記タイトルです。
View of Silence
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