FC2ブログ

記事一覧

南へ・・ 第6話「見参」

267a6f3f.jpg
「頂きます!」 「お上がり!」豊野(とよの)一家五人と、阿久比 周(あぐい・あまね)、計六人の、賑やかな昼食の席となった。長男 豊(ゆたか)の言葉通り、この時は地元の海産物、魚介の揚げ物や干物、鰯(いわし)のマリネ、海草サラダ、ひじき煮や貝汁などが、米飯と共に振る舞われた。特に貝汁の美味は、周の感銘を呼び、以後毎食、卓に上る事になる。そして、一つ引っかかるのが、揚げ物であった。

「阿久比さん」豊が言った。「これが何か、分りますか?」 「う~ん」周は一時、言葉を失い、唸ってしまった。「魚にゃ違いないけど、何か鶏に近いとこもあるな。特に『ささみ』とか・・」 豊「ああ、いいとこ行ってますね。鶏に近いかもだけど、魚で正解です。詳しくは、母から話しましょう」 「周君、それはね」後を受け、母の緑が続ける。「マンボウですよ」 「何と!」周、この日二度目の感銘だ。

周「マンボウって言うと、あの、平べったい感じの、デカい魚ですよね。そうだなあ、あれは、たまに行く水族館でしか見た事ないけど、チラッと耳にした、これを食べる地方があるらしいって話、この辺だったんですね」 緑「まあ、日本全国に何ヶ所かあるみたいだけど、貴方や豊が普段暮らす中京圏から一番近いのが、ここって事かしらね」 「でも、好い味してますね。チキンみたいな食感も好いですよ」 豊「今日のは唐揚げだから、初めての人にはお勧めかも。後は、カツみたいに揚げたり、煮たり焼いたりってメニューもあるみたいですよ」 「おお、そうか。これは好いよ」この地、北紀(ほっき)町の「普段着の海の幸」は、幸い、周の好みに近い様だ。

豊のきょうだいたちとも一通り会話、区切りの頃を見計らって、豊の父 樹(いつき)が言った。「夕方前、4pmから一時間、明朝の漁の準備をする。豊と邁(すすむ)は、遅れんように桟橋へ来る様に。周君も、来る早々悪いが、参加してくれんかな?」 聞いた周「かしこまりました。自分は船の事とか、余り分りませんが、いいんですか?」 樹「大丈夫。俺や漁師仲間が教えるから、君はその通りにすれば良い」 周「有難うございます!」 「後さ。豊に邁と俺が、明朝、飯の前に 5amから船でちょっと出漁するんだ。これ、周君にも乗ってもらうからね」 「有難うございます。望む所です!」苦手な早起きも何のその、もう一つの期待に、胸躍らせる彼であった。

父と周の会話を聞いていた豊「父さん、ちょっと話に割り込んでいい?」 樹「ああ、いいよ」これを受け「それじゃ阿久比さん、食後済みませんが、ちょっと忙しくなりそうですね。さっき、親父に確認したら、造船所の中が見られるそうです。叔父貴が幹部やってるんで、これから訪ねればOKです」 周「おお、そうか。有難う!」 豊「その後で、高台の中央病院へ行って、美波さんと面会しましょうか」 「うん、それ、いいね!」そう返事した周、忘れない内にと、豊の両親、樹と緑に、彼の両親から託された手土産を渡す。中京圏の麺類代表「きしめん」と、香料の山椒だ。「遅れましたが、こちらの親たちからです」 「おお、好いね。有難う!」これで、正式に訪問挨拶が済んだ。

食後の一息が入った 1pm、周と豊は、腹ごなしも兼ね、徒歩で眼下の造船所へ向かう。豊の父 樹から「周君は、普通免許があるんだったな。よけりゃ、ウチの軽トラ乗ってくか?」とも勧められたが、慣れぬ海辺のワインディングと、万一の事故とかを考え、それは気持ちのみ受け取って辞退した。北紀長島駅への徒歩より、やや短い10分強で、現場へ着く。

若い二人は、樹の弟 隼(はやと)を訪ね、その案内で、暫く構内を見て歩く。クレーンの釣り荷とかもあるので、当然ヘルメット着用だ。大都市圏と違って、決して広大とは行かず、建造中の中小型漁船二隻と、同じく修繕中の二隻、それに、船体から下ろして整備中のディーゼル・エンジンの様子、それに施工の後ろを支える事務方などなど。約、一時間に亘る見学であった。

「いやー、これも好いですね。船がどう手入れされるかなんて、初めて見ましたわ」周が言うと、隼「ホント、思ったより手間なんだよね。特に船の底は、貝殻とかが付き易くて、放っておくと、スピードも燃費も落ちてしまうんだ」 周「やはり大変ですね。ドック入りの時なんて、気が気じゃないのでは?」 「正にその通り!船が海から戻ると、まず底を見る訳よ」この会話を聞いていた豊「叔父さん、ご免。俺が船出す時も、その辺気をつけんといけないね」 隼「そうだよ。お前、進学希望で、この所余り乗ってないから、余計気をつけんといかん」 

それを聞いた周「叔父さん、自分、ちょっと彼と話していいですか?」 「ああ、どうぞ」隼の返事を受け「豊、お前、船乗れるのか?」 豊、笑いながら「ええ、まあね。と言いましても、5総トンまでの、ボートに毛の生えた様な小型船だけですけど。あの免許は16歳から受けられるんで、去年の夏、取ったんです。漁師を継いでも困らない様にね。船は、親父のですよ」 周「そうかぁ、お前にそんな特技があったとはな。ここにいる間に、お前の操船見られると良いな」 豊「そうですね、なるべく見てもらえる様、都合しましょう」

「お忙しいとこ、お邪魔しました!」一礼と共に造船所を辞す時、隼から「明日朝、兄者の船に乗るらしいな。まあ気をつけて!」と言われ 「はい、有難うございます!」二人はこれから、海沿いから高台の、中央病院を目指す。小半時、登り一方でちと難儀だが、まあ仕方がない。

病院へ着いたのは、2pm代も後半だった。事前に連絡をつけていたので、看護師 瀬野美波(せの・みなみ)との面会は、割合すんなりと行った。「豊君、久しぶり!」 「美波さんも、元気そうで何より!」目立つ長身と言う訳ではないが、執務のため纏(まと)めた、ストレートの黒髪、スラリとした体躯の、癖のない美貌の女。年齢は、まず二十代半ば。若い二人が、深く濃い年始に行った、花井家の姉妹中、姉の結(ゆい)とほぼ同じ位だろう。

「どうも、初めまして。阿久比です」続いて、周も挨拶。「阿久比さん、ようこそ!豊野 豊がいつもお世話になってます!」白衣にローヒールの美波、まるで実の姉の様に、彼に一礼す。周「豊、ここは懐かしいとこか?」 豊「そうですね。さっきお話した通り、小学校の終わり頃、病気で十日程ここへ入院した事がありまして。その時世話になったのが、当時まだ新人だった美波さんなんですよ」 「なるほどな。そりゃ好い思い出だわ。まあ、美波さんもお忙しそうだから、程ほどにしとくか。続きもある事だし」

豊も快く応じ「そうですね。夜もお目にかかれるし、続きが今から楽しみですわ」聞いた美波「豊君、ちょっと・・」と、彼に耳を向ける様指図。「はい、何でしょう?応じると、直ぐにヒソヒソと耳打ち。「・・ですね、その通りです」豊が返すと、周にも笑顔を向け「じゃ、続きは夜ね。豊君とこで会いましょう!」 「はい、宜しくお願いします!」

3pmを回った。医療事務をも担う美波を、今はこれ以上引っ張らない方が良い。周と豊も、明朝の船の準備が控える。「さ、それじゃ、海沿いを見て歩きながら、桟橋行きましょう」 「そうするか。良いな」病院を辞し、海沿いへと下る二人。しかしその道中も、周は、一旦の別れ際の、美波の意味ありげな笑顔が気になった。多分それは、豊も同様だろう。若者二人は想う。「今夜は、どうなる・・?」
(つづく 本稿はフィクションであります。地名共)

今回の人物壁紙 花鳥レイ
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「愛があるかい?」下記タイトルです。
愛があるかい?
スポンサーサイト
[PR]

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hakase32

Author:hakase32
愛知県在住の後半生男です。恐れながら、主に18歳以上限定内容を記して参ります。

お手数ですが、拙各稿を初めからお読み下さる場合は、下方にあります月間アーカイブ他のご利用をお願い致します。
他ブログを含め、拙記事の無断転用及び引用は ご遠慮下さい。

下記ランキングに参加しております。
クリックをお願いできれば幸いです。

官能小説ランキング

アクセスカウンター

愛と官能の美学

Shyrockさんの R18読み物集。他の作者各位も多数リンクされています。入口は、下記タイトルです。

赤星直也のエロ小説

赤星直也さんの R18読み物集。入口は、下記タイトルです。

未知の星

赤星直也さんの R18読み物集もう一つ。他の各位の作品も収録されます。

Mikiko's Room

Mikikoさんの、カテゴリー豊富な R18読み物集。独自視点の旅日記も好感です。

Adult Novels Search

R18 読み物の検索サイトです。

ブロとも一覧

拙バナーです

知人様より、優れたバナーを賜りました。必要時はご利用を Produced by Shyrock

もう一つの 拙バナーです

知人様ご厚意により、拙バナー追加編も賜りました。必要時はご利用を。 Produced by Shyrock

清き一票を(笑)

下記ランキングに参加しております。

日本ブログ村バナー


にほんブログ村 →できますれば、こちらも応援を・・

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

月別アーカイブ

これまでの拙連載「想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密(2016=H28,9~10)」と「轍(わだち)~それから(2016=H28,11~2017=H29,2)」  「母娘(ははこ)御膳(2017=H29,3~6)」  「南へ・・(2017=H29,6~8)」 「交感旅情(2017=H29,9~12)」 「パノラマカーと変な犬(2018=H30,1~5)」  「ちょっと入淫(2018=H30,6~10)」 「情事の時刻表(2018=H30,11~2019=R1,6)」 「レディオ・アンカーの幻影(2019=R1,11~2020=R2,5)」も お読み頂けます。