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南へ・・ 第7話「餐歌」

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穏やかな内海を眺めながら、周(あまね)と豊(ゆたか)が、美波(みなみ)と会っていた、北紀(ほっき)中央病院から長島漁港の桟橋に出向いたのは、4pm少し前。停泊中の、総トン数40t程の、豊野(とよの)家の中小型漁船「第二樹洋(じゅよう)丸」の甲板では、漁協の勤務を早めに終えた豊の父 樹(いつき)と学休日の弟 邁(すすむ)・それに、彼たち母方の祖父 津田兵衛(つだ・ひょうえ)の三人が、定置網漁の大きな網や、諸々の漁具を用意、積み込みに入っていた。

「お待たせしました!」 「宜しくな!」豊は、慣れた様子で、親兄弟の作業に合流して行く。周は、豊の祖父 兵衛の下で雑用をこなす。「余り考えるな。俺について用事をこなしてくれりゃ良い」 「分りました。有難うございます!」獲れた魚を収納する容器とかを、船倉へ運び入れる作業は、さほど難しくはなく、不明な所は、その都度訊けば快く教えられ、初めての周も、間もなく漁業の雰囲気に慣れて行く事ができた。小一時間、5pm前に作業は終了。

樹「皆、ご苦労さん。周君は、この作業の最後に一つだけ聞いておいて欲しい。明日は定置網を上げる作業だから、沢山の魚が跳ねて、飛沫(しぶき)が盛大に飛ぶぞ。だからこのウェット・スーツに替える様に。今、ちょっと試しに着てみるか?」 周「はい、そうですね。その時になって慌てるのも嫌ですから、今ちょっと試しておきましょう」そう返し、船倉の片隅を借りて、スーツとゴム長、それにゴム手袋を試す。

兵衛が訊く。「どうだ?すんなり動けるか?」 周「有難うございます。OKです!」 樹「よしっ、そしたら、明日朝は、起きぬけにそのスーツ着て来る様に。5am出港と言ったが、30分位早められそうだな。どうだ?」 「分りました。お受けします!」 「よしっ、豊も、邁も、頼むぞ」 「分りました!」三人は、揃って返事をした。

5pm前、この日の作業を終えると、着衣を戻した周と豊は、午前と同じ 樹の車、豊の弟 邁は、祖父 兵衛の軽トラックに分乗して帰宅。既に風呂準備が整い、若い三人は、妹 美砂を従えて夕食準備を進める豊の母 緑に促され入浴。やや年季の入った檜(ひのき)風呂は、年初に世話になった、花井邸の広い大理石風呂とは違った心地良さがあった。

周が「ああ、何か落ち着くなあ」と言えば、豊「花井先生んちの風呂程広くなくて、済みませんね」と返し。周「何言うか?この広さだから好いんだよ」と応じれば、豊「なるほどね。確かに、熱気がもつのは、余り広くないお蔭かも。それに、男三人、ちゃんと入れてるし」と返せば、それまで黙っていた、弟の邁が「ここは、ウチのお祖父さんのお気に入りなんですよ」と発し、聞いた二人が「ああ、分る分る。古き佳きって奴ね!」と応じ。

暫くおいて、周「これが混浴だったら、もっと好いのにな」と言うと、聞いた兄弟「ハハ、言うと思った。これは、あの女性(ひと)の出番・・だったかな?」と笑いながら返し。「いや、冗談だよ」 「はい、冗談ですね。分ります」こんな調子で、小半時が過ぎた。

続いて入浴の祖父 兵衛と祖母 律(りつ)、同居する、未亡人となった父方の祖母 春江、叔父 隼(はやと)と叔母 渚(なぎさ)、それに瀬野美波を交え、総勢12人の賑やかな会食が始まったのが、6pm少し過ぎ。「改めて、阿久比 周君、大学進学おめでとう!」豊の父 樹の音頭で、全員が祝辞。

「有難うございます!」周の謝辞を経て、儀礼的に、周と豊に、一杯だけビールが許される。二人と、弟の邁、妹の美砂、計四人は未成年につき、以後はコーラやサイダーでの宴席となる。大人たちも深酒をする者はなく、ビールと冷酒が一定量はけた程度であった。

それに引き替え、料理の方は見事だった。定番の鮪(まぐろ)、鰤(ぶり)、鯛(たい)の造りは元より、伊勢海老のそれや、鮑(あわび)の焼き物、生雲丹(うに)とかまでが現れ、訪れた周を魅了した。勿論、海草や地場野菜複数、食後の果物とかも、米飯と共に卓に上った。まあ長かった受験勉強の「禁欲の日々」を乗り越え、暫くぶりの美味であった。談笑の合間に、兵衛や樹が披露してくれた、何曲かの漁師歌も、馴染みがないだけに、新鮮に響いた。

小一時間が経ち、大人たち同士、若い同士が談笑中、合間に美波が、緑に耳打ちして、美砂と共に、暫く席を立った様な気がした。二人の中座が、半時程。大人達に酒の追加を勧め、一巡した所で、周はトイレを借りに立つ。廊下に出、用が済んで戻ろうとした時、美砂が一同の席に戻るのが見えた。どうも、風呂上がりの風情。その後に続き、戻ろうとした矢先、後ろから声がかかる。「周さん・・」

周「ああ、美波さん・・」振り返ると、浴衣に上衣姿の女が佇む。地方出とは思えぬ、スラリとした体躯。上背は、彼の女友だち 宙(そら)より僅かに小柄か。「お風呂だったんですね」 美波「ええ、男たちが盛り上がってる間にと思ったの。終った食器下げは一定できるけど、まだ全部片付ける訳には行かないでしょ。だから、豊のお母さんと相談して、美砂ちゃんとひとっ風呂って所ね」 「なるほど・・」流石(さすが)は、多忙な病院業務をこなす彼女、時間の使い方が上手い印象を受けた。

「周さん・・」美波が言った。「離れにお泊りなんでしょ」 周「そうです・・」 「後で伺うわ。豊も一緒・・だよね」 「そうですね・・」 「分った。今、8pm前だから、もう少ししたら、離れでね・・」 「はい・・」会話が区切られると、美波は彼に、ぐっと寄って来た。「実はね・・」 「はい・・」 「今夜、こんな予感がしたのよ」 「予感・・ですね。自分も、何となく・・」 「ふふ、分るでしょ。あたしの事、呼び捨てにしていいわ」 「あ、いや・・それはできないなあ。でも、自分の事を『俺』って言う位は良いよね」 「ええ、勿論・・」そう言葉を交わす頃には、美波と周は、もう唇が重ならんばかりに接近していた。「それじゃ・・」なりゆきと言うのだろうか。ごく自然に、二人は、互いの背後に腕を回し、唇を交わしていた。とりあえずは短め、十数秒か。

短めの、最初の抱擁が区切られると、美波は言った。「とりあえず、席に戻りましょう。貴方、明日は豊のお父さんの船に一緒に乗るんでしょ。何時起きなの?」 周「そうですねー。集合が4:30amだから、4時・・かな」 「ふふ、まあいいわ。あたしは、病院の寮の門限を、今夜は11pmにしてもらってるの。普段は一時間早いけどね。二時間あるから、お話しとブラス・アルファ位できるでしょ」 周「プラス・アルファですか、そうですか・・」ここまで返して「あ、これ以上、訊かん方がいい」と言う気持ちになっていた。

示し合せ、何食わぬ顔で、美波と周は、席に戻った。様子を見た樹が言う。「さあ、それじゃ明日朝の漁もあるから、若い衆は、そろそろ休む様に。大人たちは自己都合で。残りたければ、もう少しって事で」 「分りました。じゃ、我々はこれで。お休みなさい」周と豊は、早めに夕食の席を辞し、着替えと歯磨きなどして、漁の用具を持って 離れに移動。豊のきょうだいたちも、ほぼ同時に、同様にして、階上の自室に下がった。残った席は、緑と律だけで片付けられそうな状況になった。

「さて、明日朝は4時起きか。気を引き締めてかからんといかんな」周が言うと「まあ、そんなに難しく考える必要はありません。網を上げる時、魚たちが跳ねて賑やかかもだけど、それを乗り切りゃ、もう結果見えてますよ。それに、海の眺めが陸からとは違いますよ」そう言い合いながら、ポツンと灯火があるだけの、薄暗い廊下を離れへと進む、若者二人。気がつかぬ内に、その背後にもう一つの影が、そっと寄り添う。洗い髪の、優れた香り。まだ時刻は8:30pm前。豊野家の大座敷からは、残された大人たちの談笑の声が、名残り惜しそうに響く。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 羽田あい
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「クィック・ドランカード(A Quick Drunkard)」下記タイトルです。
A Quick Drunkard
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