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想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密 第14話「気配」

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7月24日の金曜。曇りの朝だが雲は薄く、午後は晴れ間が出そうな気配。
前夜の「補習」を気分良く締め括った健(たける)、徹の二少年。この朝は、いつも通り6時前起床。草サッカーのシュミレーション練習で汗を流す。7時前の、JR中央西線上り一番電車 1820Mの通過を合図に終了。シャワーを経て朝食。「頂きます!」定番の洋朝食だ。

この最中、初美から若干の日程変更を告げられる。「あのね、食べながら聞いて。26日の日曜予定だった本荘先生のお越しが、一日前の25日土曜になったの。それと、一旦N市へ戻るのは、予定通り7月31日金曜の午後ね。後、山音先生の予定が一日増えて、27日月曜もここ泊りになるわ。日付の変更は、こんな所かしら。授業の変更があれば、前の日夕方までに伝えるからね」「はい、了解しました」二少年、返す。

徹、早めに食事を終わり「ご馳走様でした。では洗濯にかかります」 健も続いて「ご馳走様でした。自分は掃除に入ります」と、それぞれ作業開始。一昨日とは、逆の人事になった。健が、生徒の寝室掃除を要領良く終え、教室のそれが半ばの所で、徹が顔を出し「取り込み中、邪魔して悪いのう。健、ちょっといいかな?」

健、事態を察して「ああ何、あの事かな?」 徹「そうそう」 健「次かと思ったが、そうか、もう来たか」そう返し、一度教室を出る。初美には、事後で離席を伝える事にした。
徹「な、夕べの妖精調白コスが、フルセットって事だ」 健「ハハ、なる程な。いやいや、いつ見てもエッチだわ。まあ、干すのは任せてくれよ」 徹「ああ、宜しく」物干しと教室掃除、二人は手際良くこなした。健、教室で初美に「済みません。途中で、箕輪に呼ばれまして」の一言。了解を得る。

上り貨物 3088列車が通過して暫く後、午前の授業。この日は習字に取り組む。初美の指導姿勢は割合厳しく、注意の時の語調もかなり強かった。幾ら優等生と言えど、失敗や不足もそれなりで、二少年は、しばしば彼女から注意を受けた。まあ、かわし方を一通り覚えれば、そう不愉快でもなかったのだが。

特別講師 山音香緒里(やまね・かおり)はやや遅れ、午後3時半頃に中山荘(ちゅうざんそう)着の見込み。いつも通り、上り貨物 3084列車の通過で午前の部は終了。午前途中に出動の、管理人 早瀬夫妻に、卵焼きや佃煮、白飯などの昼食を用意してもらい、済ませる。その席上で健「先生、書道の筆で、穂先がダメみたいなのが出たんですが、どうしましょう」 聞いた初美「ああ、それね。あたしが預かるわ。授業で使えなくなっても、他に使い道があるから」こう返す。食後、彼女はその筆を預かるが、その隠れた使い道は後述する。

午後は、3時前まで暫しの午睡。特に「夜の補習」が始まってから、初美はその当日、二少年に必ず午睡をとらせる様になる。目的は二つ。一つは「夜の補習」中に、眠気を催すのを防ぐ為と、もう一つは勿論、彼たちの体力と精力を消耗させない為だ。

午睡が終わり次第、干していた衣類の収納。3時20分頃、少し早めに香緒里が到着。前回と同じく、全員で、車からの物品降ろしと収納の後、休憩もそこそこに彼女の英語授業。下り貨物 81列車の通過を合図に、この日の全教科終了。入浴と夕食の準備をしてくれた、管理人 早瀬夫妻も帰宅する。暫く後、二女講師、二少年の順で入浴。午後6時過ぎから夕食。この日のメニューは、肉団子と野菜炒めがメインだった。

食後、窓外を見た健。ほぼ雲が消え、晴天になったのを確かめて「よし。今夜は星が見られるな」と一言。徹も「一つでも多く、夏の星座か見られると好いな」こう応じ。どうやら、梅雨が明けたらしい。二人は、高倍率の双眼鏡を携えていた。天体望遠鏡の様には行かないが、それでも晴れさえすれば、そこそこの天体ショーを楽しむ事ができた。庭の水場には、少数ながら蛍の舞。途中まで、香緒里も見物に加わり、星座の話などで盛り上がった。

「二人、暫く見ていてね。私、ちょっと部屋へ戻るから」香緒里、そう言って屋内へ。二少年は「大丈夫ですよ、香緒里先生。暗くて危ないから、部屋にいらして下さい」冗談を交え応じる。「まあ、マセガキが・・」そう思いながら、香緒里「心配有難う」こうあしらう。

屋内へ戻った香緒里。生徒の寝室へ行き、少し前から気になっていた事を探り始めた。今日夕方もそうだったが、どうも生徒の寝室に残る女性の香料が、少し強い様な気がしたのだ。某メーカーの「★」番と言う香水。それは、初美が愛用しているもので、二少年も好感していた。特に、徹が強く憧れていたのである。

「机周りは、講師の私たちもよく居るから仕方がない。でも・・」香緒里は思った。「二人のベッドの辺りからも、同じ香りがして来る様な・・これ、気のせいかしら」
もう少し、ベッド周りの香水が強かったら、彼女は、初美と二少年の「夜の行為」を完全に疑っていただろう。だが、まだこの夜は「まさか・・」の想いも強かった。初美の品性も、二少年の人格も、彼女は信じたかった。何よりも、悪くすれば、初美の、そして二少年の未来を、闇に閉ざす事ともなりかねないからだ。

香緒里は、居間にいる初美の所へ行った。彼女は、先刻からTVの音楽番組をチェックしていた。「初ちゃん」「何?」「留守がちで悪いわね」「ううん、気にしないで。こちらは貴方の留守中も、まあ上手く回ってるから」暫く、今回の学級の教科内容メインの、二人のやり取りが続いた。

「所で初ちゃん。彼たちの部屋で、ちょっと気になる事があるんだけど」「何かしら?」「これは、私たち共通の問題かもだけど、彼たちの部屋へ行ったら、少し換気をした方が良いと思うの。女はほら、香水とかを使うでしょ。その香りが、いつまでも部屋に残ったりするのって、やっぱり拙いんじゃないかしら」「ああ、ご免ね。余り気にしなかった。これからは、気をつけないといけないわね」
「そうそう。彼たちもそろそろ思春期だし、余りああ言う香りがすると、それは穏やかな気持ちでいられない事もあるかもよ」「ご免なさい。確かにそうかも知れないわね」

午後9時頃、天体見物を終えた二少年が戻って来た。居間に顔を出し「先生方、今、戻りました。シャワー使わしてもらいますね」「ああ、どうぞ。もう、休むんでしょ」と香緒里。「ですね。それでは」彼たちは、浴室に消えた。
「留守がちにした私も悪いけど、なるべく貴方の負担にならない様努めるわ。だから貴方も、そこの所は理解してくれないかしら」「分ったわ」香緒里と初美の会話は、次第に途切れがちになり、TV画面を向く事が多くなった。

「先生方、有難うございました。風呂場は片付け済。僕たち休みます。お疲れ様でした」二少年、この日最後の挨拶。「はい、お休みね。又明日」女講師たちも応じた。
「香緒里」初美が声かけ。「はい?」「寝室に、寝酒があるの。軽くどうかしら?」「好いわね。有難う。頂くわ」彼女たちも寝室へ。午後10時前、夜の線路を行く、下り方面への轟音一つ。貨物 3081列車だろう。
(つづく 本稿はフィクションであります 2016=H28,7,10記)

今回の人物壁紙 大橋未久
渡辺貞夫さんの今回楽曲「クィロンボ(Qilombo)」下記タイトルです。
Qilombo
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