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交感旅情 第4話「備忘」

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明けて日曜の朝、前夜が流石(さすが)に遅い就寝だったので、中条の居所に泊まった、周(あまね)の目覚めは芳しいものではなかった。天気は良く、陽春らしい快適さが感じられるが、彼自身は必ずしもそうではない。8amを大きく過ぎた頃、覚醒をもたらしたもの、それは・・

窓外に、けたたましい、甲高い咆哮。下方から、もう一つの吠え声が聴こえて来る。そう、中条の居所 斜め向かい家の屋上に、例によって、躾(しつけ)の良くない飼い犬が現れ、階下の散歩人と連れ犬に、喧嘩を売っているのだ。

「あ~あ、又またおっ始めやがった。どうにも仕様のねぇ Kuso犬だな。お~、周君、お早う!」 「お早うございます!やっぱり現れましたね。予想はしてたんですが・・」 「そうそう、ほぼ毎朝の事なんだが、今朝は特にうぜぇな。まあご主人共々、アホに何を文句言っても無駄・・は分ってるんだが」 「ああ・・ですよね。四足(よつあし)に説教したって、どうしようもありませんもんね」会話の傍らの、暫しの応酬の後、散歩人と連れ犬が遠ざかると「屋上占拠犬」はクルリと後ろを向き、後足の片方を上げて、傍らの空調室外機をめがけ「ジョ~ッ!」と、小水を見舞った。これを見た男二人、顔を見合わせ、失笑。

「・・たく。周君、見ねぇ方がいいぞ」 「・・ですよね。ですが、ふっと表に目をやると、どうしても視界に入っちまいまして・・」 「ああ、悪いな。丁度斜め向かいで、一番目につき易いのは事実だからな。あそこは又、4F建ての屋上だから、見下ろす視点だとモロ映りなんだよな。所で、アイツの特技って知ってるか?」 「いえ、存じません。何でしょう?」 「そうか。それはだな、吠える事だが、ただし・・」 「はい・・」 「つまり、両方で同時に吠えられるって事だ。口と尻穴からさ・・」 

周「ハハ・・何となく思ってたけど、アイツなら有りですかね・・?」 中条「ああ、時々だけどな。口で『ワオワオ!』と吠えてる最中に、尻穴の方で『ブブブブブゥ~ッ!』てな感じでさ」 「わ・・マジですか?」 「ああ、マジでよ。俺、二度目撃したもん。その内一度は、遊びに来てた、甥の健(たける)と、その友(つれ)徹(とおる)の眼前だ。何ともまあ、間の悪い事で・・」 「・・いやそれ、もう『笑えぬ喜劇』ですね。どうなんでしょう。リキ入れて吠える時に、尻穴が緩んで漏らしてるって事ですかね?」 「ああ、それも有りだろうな。まあ、知っての通り、そっちの方は出るもんが飛び出して来るから、当たらん様にせんとな!」 「それ、まんま『テロ』じゃないですか?」 「そうだよ。当たれば、そう言う事になるな。上手くすると、生物兵器になるか~?」点々と、粗相の跡が残る向い家の屋上に目を遣りながら、二人は、そう言って笑った。少しだけ、周の気分が持ち直す。

さて、くだらない事で感動して盛り上がってばかりもいられない。「後は、勝手にさせとけ・・」中条はこう言うと、周を促して、近所の、徒歩で行ける馴染みの喫茶店へ、朝食に。それに先立ち、彼は言った。「周君。俺もだが、スマホに送ってもらった『マンコ画像』を消さんといかんな」 「あっ、そうだ!いかんいかん!忘れるとこだった。感謝です。じゃ、実行っと・・」まず、女たちの下方画像が消去される。次いで、正に玄関を出ようとした時。周が「あっ伯父さん・・」 「はい、何だろ?」中条が返すと「そう言えば、自分たちも『チンポ画像』を撮って保存してますよねぇ」 「いや~、よく気付いた。礼を言うぞ!そうそう、ここで消さんとな」続いて、両者の当該画像も消去。「よし、後は、彼女たちに会った折、消してくれてるか確かめる事な。それじゃ・・」頷き合い、夜着から春の平装に替えると、二人はスニーカーを履き施錠、EVで階下へ向かった。

朝方はまだ肌寒くも、一度陽が昇れば暑ささえ感じ始める時季。喫茶店のコーヒーも、ホットかアイスか、微妙な時季を迎えていた。「まあ、もう少しホットで行くか・・」 「同意です・・」中京圏の名物でもある、ボリュームのあるモーニング・セットを嗜みながら、スポーツ紙の記事を追うのが、日曜午前の、中条の楽しみであった。周も、別のスポーツ紙に目を通し、途中で中条のそれと交換し。最近は禁煙の広がりで、気になった煙草の煙も、店内分煙のお蔭で、随分抑えられて来ている。

「もう、このレベルなら・・」中条が言った。「はい・・」周が返すと「女性たちを連れて来ても好い感じだな。尤も、初ちゃんは、ちょっと前から来る事あるが。ずっと以前だと、遊技(パチンコ)店並みに籠(こも)る事もあったんだが、今は、そう気にならん。君も、そう思うだろう」 「・・ですね。このレベルなら、自分も大丈夫ですよ」因みに、この二人も女たち同様、喫煙はしなかった。食事の間に、周のスマート・ホンにLINE着信。見ると、暫く音信のなかった、大阪の木下由香(きのした・ゆか)からだった。

「阿久比(あぐい)君、暫くね。元気だった?」 「有難うございます。お蔭様で、大学へも元気に通わせてもらってまして!」周、そう返し。「今日はお休みなの?」 「そうです。夕べは、入学祝いとかをして頂いて、そのまま知り合いの所に泊めてもらった翌日でして」 「良かったね。あたしからも『おめでとう』を言わせてもらうわ」 「有難うございます!妹の由紀(ゆき)さんも、今春からでしたよね。おめでとうございます!」 「有難う。代わりに聞くわ。それでね・・」 「はい・・」 「この前お会いした時、今月末に、新潟へ記念旅行だって言ってたよね」 「そうです。今日は、これから切符や資料の受け取りと会計に行くんですよ」 「そうか、良かった。実はね、あたしたちも、同じタイミングで、新潟へ行く予定なの」 「わ、マジですか?」 「ふふ、そうよ。で、宿とかを教えて欲しいんだけど、いいかしら?」 「ちょっとお待ちを・・」一度交信を区切り、中条に、新潟の宿とかを教えて良いか訊いた上で、返信す。

由香「分った。実はね」 周「はい・・」 「29日土曜の温泉宿も、翌日の新潟市内のホテルも、同じ所なの。だから、近いお部屋にしてもらえる様に、一言頼んでみるね。まあ、楽しみにしてて!」 「はい、有難うございます!現地では、どうか宜しくです!」交信終了。しかし、意外な展開になりそうだ。勿論、中条にも伝え、彼も「ほう!」意外そうな反応だ。一時間余り後。

「さてと・・」又、中条が言う。「はい・・」周の返事を受け「そろそろ、栄町の旅行社って始まるよな。これから行って、切符とかを受け取って来るかな。周君にも見て欲しいしさ」 「ええ、勿論。一緒に伺います」 「で、それ済んだら、行けそうなら、昼を食ってとりあえずの解散にするか」 「そうですね。じゃ、伯父さんちに置かせてもらってる荷物、持って出る様にしますか」 「それがいいね」

会計を済ませ、店を出たのが 10am過ぎ。男二人は、一旦居所へ手回り品を取りに戻った後、直ぐに N市営地下鉄で栄町へ向かう。中条の所からだと、途中一度の乗換えを要す。小半時程後、旅行社に着くと、既に数組の受付待ちの客があった。周に順番待ちをさせる間に、中条が、係員(クルー)の一人に、馴染みの男幹部 須見 遥(すみ・はるか)が出勤か否かを確認。彼もたまたま出ており、少し待てば応対する由だった。十数分程の待ち時間を経て・・

「中条さん、お待たせしました。今回も、有難うございます」忙しくも、正装で決めた須見が現れた。「ああ、いや、今度もご面倒かけまして」中条は応じ、周と共に、窓口の一つに招かれる。「今月末からの、新潟へのご行程の件ですよね」 「そうです。切符とかを受け取って、精算しとこうと思いまして」 「はい、有難うございます。では、順を追って・・」二人とを隔てるカウンター越しに、須見は、準備した四人分の切符各種と、現地や宿などの資料を揃え、手際良く説明して行く。

「OK。よく分りました。往きの、夜行高速バスの席がちと心配だったけど、よく希望通してくれましたなぁ」 「いえいえ、むしろ私共の腕の見せ所でしてね。早めに伺っておいて良かったです」須見は、笑って返した。「それでね、お二人・・」 「はい・・」

男二人の返事を聞いて、須見は続ける。「実は、もうご存じかもですが、皆様と同じ日程で、大阪からお越しの、木下由香さんと由紀さんのお二方が、お宿二泊も同じ所でして、近いお部屋でとのご希望を聞いておりまして。同じ社の、大阪の同僚から話があったんですが、私共で、その辺りも調整致しましたので、一言ご報告致す次第です」 聞いた中条「了解です。須見さん、今回もご面倒かけました。改めて、Good Jobです!」周も、共に一礼す。

「有難うございます。お気をつけて、行ってらっしゃいませ!」須見以下、係員数名の見送りを受け、会計を終えた周と中条は、旅行社を離れる。「いよいよ、後12日。つつがなく出かけられる様にせんとな」 「・・ですね。所で、往きの夜行高速バスの行程は、どなたのご希望なんでしょう?」 「ああ悪い。初ちゃんと、俺の希望だよ。空路での往来でもそりゃいいんだが、何か、乗ってる時間が短すぎてな。まあ、運賃的にも安いし・・」 「自分はいいですよ。こちらの方が、面白そうですし」 「そう。それに、さっきの君のLINEも、面白い予感がする様な」 「そうですね。一定は期待して・・いいかな?」周は、笑って返した。栄町の中心から少し東へ入った、中条の馴染み処は、賑わうも 何とか席がありそうだ。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の壁紙 続・Kuso犬のイメージ 名古屋市内 2015=H27,11 撮影 筆者
葉加瀬太郎さんの今回楽曲「ハーヴェスト・ホーム(Harvest Home)」下記タイトルです。
Harvest Home

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