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交感旅情 第50話「残響」

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「いやいや、期待に違(たが)わんな。何度見ても、霊峰富士は見事だわ!」 「そうよね~。まだ頂上に雪も残って、素敵だわ~!」最新車両 N700A編成による、東海道新幹線下り「こだま669号」の、グリーン席 10号車の山側中程に陣取った、中条たち四人から、口々に 霊峰富士への賛辞が送られる。「赤富士」とでも言うのだろうか。傾き始めた夕陽に映える山容は、又格別であった。

午後の JR東京駅で、小半時の乗換え時間を利用し、車中夕食の買い物などした一行は、4pm少し前に発つ 前述の列車に乗り 順調に西下。地元 N市までの行程も、中条が、旅行会社幹部の須見から聞いた、割安でグリーン車に乗れるプランを利用したのだ。富士の英姿が見られなくなった頃、思い思いの駅弁やサンドイッチ、酒気を許されない宙(そら)はペリエ、他の三人は、赤ワインのミニ・ボトルで乾杯した。それに先立つ、新横浜を発って間もない4:30pm少し前、中条のスマート・フォンに、由香、由紀の姉妹から 無事帰宅のLINE着信があった。「帰りの飯豊(いいで)連山も、北アルプスも素敵でしたよ」の書き添えに、彼は「良かったな。俺も案内のし甲斐があったよ」と返事をした。

「美人姉妹さん、無事帰ったってよ!」彼は、初美と宙、周に聞こえる様に言った。「まあ、良かった。あの娘(コ)たち、航空便だから、ちょっと心配だったのよね」初美が返し 「はいはい・・あたしたちも少し心配でした。良かったですね」宙と周(あまね)も 応じた。
富士の鑑賞や、夕食を交えての談笑に耽(ふけ)っていると、速達の「のぞみ」や「ひかり」に比べ、一時間強は遅い「こだま」の行程も、さほど負担は感じられなかった。6:40pm過ぎ N市中央駅着。三日間 70時間近い旅が、終りを告げた。

「お帰りなさい。お疲れ様でした!」出発とは反対側の、中央駅西側の車寄せの辺りに、事前に連絡を取り合っていた、Sタクシーの永野が 迎えに来てくれていた。「有難う、永ちゃん。お蔭で、良い時間だったよ。早速だが、これ 例の品な・・」中条はこう言い、永野に 福島・西会津の名産「焼き麩(ふ)」の数パックを渡す。「ああ、有難うございます。これ、鍋料理や煮物にもイケそうですね。こりゃいいや!」大柄な黒塗りワンボックス車「トヨタ・アルファード」に、降りる順を考え 後列左に宙、右に初美、中央左に周、右に中条が乗る。四人の荷物は、後方に収まった。まだ混み合う、駅西口広場の車列を縫う様に ゆっくりと発つ。

「良かったですね。概ね、好い感じの行程だった様で・・」プロらしく、巧妙にステアリングを操る永野が言うと、中条「うんうん、お蔭で、皆 毎日喜んでくれてな。俺も、幹事役と 案内のし甲斐があって、思ったより疲れなかったよ」と返す。永野は「ああ、そりゃ良いですね。とに角、楽しめると疲れ難いらしいですからね」と続け、横から初美も「ええ、それはあたしも感じたわ。夜の、余り大声じゃ言えない事も含めてね」と応じ。「ハハ、やはりありましたか。まあ、自分たちは踏み込めないとこですが・・」永野が、笑顔で反応すると、皆、静かに笑った。

「有難うございます。お疲れ様でした!」N城址から遠い順に、宙、周、初美の順に それぞれの居所前で降ろし、最後に中条が下車。永野「新さんも、有難うございました。又近く、室(むろ)さんとこででも。お土産話、楽しみにしてますよ!」 中条「うんうん。こちらこそ世話になった。又、夜 都合の良い時でも!今夜は、仕事なの?」 「ええ、この後 休憩と車の交代をして、今夜は日付が変わる辺りまでですね」 「ご苦労様。まあ、気をつけて!」 「はい、有難うございます!」勤務先のタクシー券にて会計の後、永野の車は、明るい尾灯を引いて遠ざかった。

入浴を挟んで、酒気をお供にTV番組をチェックしていた 10pm少し前、中条のスマート・フォンが反応した。大阪へ帰った、由香からLINE着信だ。先刻、己と一行も 帰り着いた事を、知らせておいた返信でもあろう。

「伯父様、三日間有難うございました。あっと言う間で 少し名残惜しいかもだけど、とても素敵な日々でした。余りにも美しい雪山と、緑の川面。疲れを癒してくれた、心地良いお湯。この世のものとは思えない位、美味しいお酒と食事。何か大事なメッセージを送ってくれた、勇壮な蒸気機関車の走り。それに、最後に見られた 素晴らしい日本海の海辺。どれもこれも、忘れられない事共です。それとね・・」LINEの電文は、一旦区切られる。

「由香ちゃん、有難う。俺たちも、貴女たち姉妹と行動を共にできて、とても喜んでるよ。今は、疲れてるだろうし、周君にも LINE送るんだろ。何なら、この続きは明日辺りでも良いぜ」中条は返した。受信した由香は、続ける。「お気遣いおおきに!感謝です。でも、周君には、由紀がお礼を伝えてるから大丈夫よ。伯父様も、もうお休みでしょうから、今夜はこれ位にしますけど、これだけは言わせて欲しいわ!」受けた中条「いいよ。聞こう」と応じ。

由香「二晩もの、おスケベな行事(イヴェント)も、とても素敵でした!」 中条「ハハ、どうかとも思ったが、好く思ってくれて大感謝やよ。こちらこそ、礼を言おうぞ!」 「あたしたちも、とても良い思い出になりそうです。由紀も言うてたけど、又、こないなお席を設けて欲しいわ!」 「OK 。直ぐは難しいかもだが、又 続きができる様にして進ぜようぞ!」 「ふふ、約束よ・・」 「ああ、約束する!」二人はこの後、互いに謝意を交わして交信を終えた。

翌5/2の火曜、中条は、前日取った有給休暇の分を含め、連休谷間の用件をこなす為 出社。取引先多数も連休中で 外務はなく、主に 増える連休明けの用件向けの準備が主だった。夕方早めの 5pm頃から翌日までは、これも短めながら連休に入った室と、同タイミングで休日となった永野の三人で、南郊の C半島の海辺へと向かった。

足は、永野の愛車 トヨタ・ノア。「ハハ、俺の 仕事の相棒みてえだな!」と、中条は喜び、室と永野も、上機嫌だった。少し遅めの湯と酒食で、三人には 良い気分転換となったのも事実だった。中条たちの 新潟方面旅行の話題は、大声で語れる範囲にて。海沿いの風情を満喫した上、翌日午後 帰った。

周は、戻った翌日から、祝日となった 5/4木曜まで親元へ。翌 5日金曜午後戻り、室の店舗に出勤。その次の 6日土曜は休日だった。その前夜遅く、彼は中条と LINE交信した。「実はさ・・」彼は切り出す。「急で悪いが、明日夜 俺んちで、旅行の反省会ってか、復習会でもできたらって 思う訳よ。初ちゃんも、乗り気だし」 周「復習会ですか。分ります。ただ・・」 

中条「ああ、そっちも分る。遅い時間だから、宙ちゃんの都合が、明日でねえと分らんって事やな」 周「まあ、彼女(あいつ)とは 会う予定になってますから、朝 話しても大丈夫ですが・・」 「そうか。そう言う事なら、伝えてくれんか。急で悪いが・・」 「ええ、それは良いと思います。多分、大丈夫でしょうが」 「ホント 悪いな。宜しくです」 「かしこまりましてござる」交信終了。

5/6の土曜は、朝から青天に恵まれた。少し遅めの 9amに起きた周は、朝食に赴いた 馴染みの喫茶店で、宙に LINEを送り、午後の 中条たちとの用件を伝えた。この「復習会」の用件の肝は、初美と中条、宙と周のカップルを「交換(スワップ)」する事にあり、それは 周も分っていた。宙の返事は、意外にも OKだったが「面白いじゃん。それ・・」と付け加えたのが、ほんの少し引っ掛かった。

この夜は、中条の居所泊りとなろう。戻って 己の居所を清め、出かける用意をしていると、玄関のインターフォンが反応。呼び出す前に動いた、恋人の麗姿が そこにあった。「急で悪いな・・」部屋着のトレーナー上下姿で、旅立ちの時と同じ、薄手の上着にブラウス、長めのデニム・スカート姿の 宙を迎え入れる。

まずは、コーヒーと甘味での歓待だ。TV の報道番組をチェックしながら、中条からの話を伝える。宙は静かに聞いていたが、会話が区切られると「それでね、周さん・・」と、切り出した。「ああ、はい、聞こう」彼が返すと「お昼は、栄町へ行こうよ。お買い物もしたいしさ・・」と続けた。

「ああ、勿論良いよ・・」周は気軽に応じ、暫くして 二人は、市営地下鉄で栄町へ。周も、薄手上衣にジーンズ、宙のに似たカジュアル靴の出で立ち。大型連休も終盤とあって、N市街にも、賑わいが戻り始めたようだ。二人は昼食を遅めにして、先に買い物をする事に。宙は、栄町の南部に位地する 世界的な本の名店と、同じビルにある文具店に 先に立って入る。「又、やる気か?」この行動を見て、周は 宙の意図がおぼろげに分る様に感じた。迷いのない、はっきりした足取りで、彼女は デザイン用品のブースへと向かって行く。そして・・

「!」周の脳裡に、緊張が過(よぎ)る。恋人 宙が足を止めたのは、大小様々な「トレーサー」と呼ばれる絵付け筆のコーナーだった。「なるべく、細めのが良いわね・・」などと呟(つぶや)きながら、じっくりと 並べられた筆たちを見て行く。薄ぼんやりと、周が目に留めたその視線は、些(いささ)かの戦慄を覚える程、ねっとりとした薄気味悪さを湛えていた。彼は想った。「貴女は・・」 「又 狙ってるのか?初美先生の菊花(肛門)を・・」
(おわり 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 明日花キララ
葉加瀬太郎さんの今回楽曲「タイム・メッセンジャー(Time Messenger)」下記タイトルです。
Time Messenger

蒸機 C57 「SLばんえつ物語」走行動画(引用) 下記ナンバーのクリック又はタップで ご覧になれます。
C57180/6


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