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想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密 第24話「復路」

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7月31日の金曜、ようやく、夏らしい晴れ間が多く見られる様になった。
前日に続き、健(たける)、徹の二少年は、草サッカー朝錬を順調にこなす。一旦N市へ戻っての8月1日土曜には、クラブの会合と練習試合も予定されるので、それに備えたメニューにも取り組んだ。いつも通り、JR中央西線の、上り一番電車の通過をもって、朝錬は終了。シャワーを経て朝食。

前日の30日木曜から、香緒里も戻り、四人態勢に復した林間学級。気になる洗濯も、浴衣ならとやかくは言われまい。この日は、午前の前半のみ、不在で遅れていた香緒里の教科に臨み、午前の後半は自由研究の作業、昼食後は、一旦N市へ帰る準備に充てた。
二少年、その夜も、夕食後すぐの早い時間は天体見物。満月に近く、かなり見難かったのは事実だが。前庭の水場には、もうお馴染みの蛍も現れ、ダブル点滅ショーに興じた。その後、初美の歌唱と香緒里のピアノ伴奏を聴く、大人し目の時間を過ごす。そのせいか、まずは良く眠れた様だ。

さて、7月最後の金曜午後、N市への、一時帰還の時を迎える。それに先立つ昼食の直後、初美から、月明け後の林間学級日程と、中山荘(ちゅうざんそう)への戻りの集合場所、時刻などが伝えられた。
それによると、学級残りの日程は、8月3日月曜から、7日金曜まで。最終二日前の5日水曜には、再び養護主任 本荘小町が訪れる由。聞いた健、思い当たる事があった。「小町先生・・て事は?!」詳しくは後程。

午後3時前までに、洗濯物収納などの雑用と、一時帰還の用意が終わり、初美、香緒里の二女講師と、早瀬管理人夫妻が、留守中の事につき、簡単に打ち合わせ。
初美「では、ご面倒をおかけしますが、お二人は、今夜はここへお泊り下さり、明日の昼頃、適当な所でお帰り下さる様。日曜はお休みですから、ここが無人になります。施錠とセキュリティ・システム動作は、宜しくお願いしますわ」
「心得ました。ご安全にお帰りを」早瀬夫妻は、こう返し、どちらからともなく「又来月、宜しくお願いします」と。

3時20分頃、香緒里のトヨタ・アルファードに乗った四人は、ひとまず中山荘を離れる。川下の、上りJR特急の停まる、香緒里の親類宅近くの駅までは、ここから約20分のドライヴである。この地方の山峡(やまかい)は、西隣に当たる、F県下の飛水峡が魅力的だが、ここ木曾谷も、負けてはいない。右へ左へカーヴを描く国道と、眼下に見える渓流が、変化に富んでいて飽きさせない。
スマート・ホン画像に慣れた少年たちさえも「水の流れって、見てて好いなあ」と言わせたものだ。勿論、女講師たちも「本当に素敵」感嘆の声を漏らす。

乗換駅に着くと、香緒里は三人を先に降ろし、ほんの少し離れた、親類所有の駐車場へ入庫に向かう。初美は、先に自分の切符を受け取り、駅構内に入る事にした。二少年は、香緒里と合流すべく、待合室にて待機。

プラット・フォームに上がると、眼前に、G県下へ向かう下り貨物 81列車が停まっていた。この駅で、彼女たちの乗る上り特急が発った後、山間へと出発するのだ。先頭は、勿論電機 EF64(1000代)。この日は、所定の二機重連だ。どちらも、紺とホワイトの、斜めの配色が特徴的な、大宮工場色である。傍らに、貨物会社を表す、赤い「JRF」のロゴ、運転台直下には、所属の車両基地(稲沢市の愛知機関区)を略して表す「愛」の表記も見える。

「これが、EF64・・」先頭機を見つめながら、初美が呟いた。運転台は、この時無人。運転士は、駅事務所へ用務に行っている風情だった。背後の、十数両はあろうコンテナ車の編成は、所々に空きが見られる、九割方の積載状況であった。
本当に、武骨極まるサイド・ビュー。運転台背後の前寄りには、大きな送風グリルが並び、その前後に、古風な明かり窓が数か所。下半身を固める、DT138及び139と呼ばれる足回りも、同じ位硬派の風情。そして、正面も。窓上の、つらら除けを兼ねた大きなサン・バイザー、下端を守る雪除け、そして、連結器の周りに群がる、ブレーキ配管と電気ケーブル。「本当に、こんなに要るのかしら?」一般女性の目からは、そう見えても無理からぬ程、数多かった。

運転士が、用務から戻った。初美が観察しているのに気づき、軽く会釈。心持ち、恥らっている様にも見える。彼女も、会釈と微笑みで返した。忽(たちま)ち、装備の機器類、送風機、電動発電機、制動用空気圧縮機とかが一斉に動き出し、その音たちで賑やかに。二機の機関車による、合奏の中で初美は想った。「何もかもが男臭い。でも、それだけに頼もしい。山の向うに住む人々の命と暮らしは、この彼たちの頑張りに、支えられているんだわ。運転席(コクピット)の『愛』のサインは、その証しよ」

少しおいて、香緒里と二少年が姿を見せる。「いや~残念。今日は、両方『牛乳パック』だわ」やや冴えない反応。「ふ~ん、今一なんだ。もっと、見応えのある日があるのね」香緒里が言う。「そうなんです。国鉄の頃からの機関車なんですが、初めは紺一色で、正面だけクリーム・イエローの色合いがオリジナルでして。その原色機が来ると、ベストなんですがね」健、こう返す。徹「この後の、5875はどうかな?」と言えば、健「そうだなあ、もしかすると」と返す。香緒里も「そうか、もしかしたら・・なんだ」と応じる。

午後4時寸前、時刻表より僅かに遅れ、上り特急「ワイド・ビューしなの16号」が滑り込む。この日は八両編成。前二両、7、8号車が自由席。座れないのでは?と心配した四人だったが、幸いにも向い合せ一ボックスの感じで、席を確保できた。
健が言った。「八両だとさあ、7号車が運転台付になって、席数が減っちゃうんだよね」
「そうそう。けどまあ、皆、座れたから良かったんじゃないの」徹、こう返す。
初美は「列車なら、香緒里が運転の心配しなくても済むから、気楽だわ」と言えば「うん。気遣い有難う」香緒里も返した。

暑い午後の青空の下を、上り特急は快調に走った。出発後暫く、緩いカーヴとトンネルが連続した後、木曽川沿いに平地を目指す。約10分強で、ダム湖の畔(ほとり)に出、風景がゆったりし始める。「こう言う穏やかな水の風景、好いわね」初美が言った。他の三人、それぞれに頷く。中津川を発ってすぐ、下り貨物便と行き違い。徹の話した、5875列車だろう。「あ~あ、これも二機共牛乳パックだわ」二少年、失望した様な。

東濃地方と呼ばれる田園地帯を、列車は西へ向けすっ飛んで行く。最高速は、120km/Hかそれ以上だろう。駅の間とは言え、車だと二時間以上を要する所を、一時間そこそこで達するスピードは、やはり鉄道の武器に思われた。
多治見と言う街を発って、A、F両県境の渓谷を抜け、再び平地へ出ると、N市中央駅はもうすぐそこ。この上り特急は、更に西を目指すので、女講師と少年たちは、間違いなく降りなければならない。ここで、健のスマート・ホンにSMS着信。中条からだ。

健「はいはい。怪しい伯父さん、有難う」 中条「こら健!俺は不審者かっ?」
健「当たらないけど、近い様な気がするんだけどなあ。笑」
中条「当たらずと言えども、遠からじって言うんだけどなあ。笑」
健「ああ分った。有難う。所で、迎えに来てもらえる事になったのかな?」
中条「その事よ。お前たちの着く時分に、中央駅に回れそうだわ」
健「大感謝!それは良かった!俺たち四人とも、大丈夫かな?」
中条「ああ、いいだろう。着いたら、すぐ来いよ。待ち合わせは、西口新幹線側の、いつもの所な」 

健「悪いね。有難う!」傍らで読んだ香緒里「ちよっと代ってくれる?」彼のスマホを預かり、中条宛てにSMS。
香緒里「中条さん、山音です。送って下さる由、有難うございます。いつも申し訳ないですね」
中条「いやいや、気にしないで下さい。お互い様だし、良くある事ですからね。じゃ、着き次第、西口の例の所で。道中ご安全に」
香緒里「有難うございます。中条さんも、お気をつけて」健に、スマホが返される。

午後5時少し過ぎ、列車はN市中央駅に着いた。降りるや否や、二少年は、プラット・フォームの向かい側へ。「今から5885が来るぞ!」その直後、電機 EF64(1000代)原色が先頭の下り貨物便が、傍らをゆっくり通り抜ける。彼たち、どうにか画像を捉えられた様だ。見守る二女講師「ああ、あれね。昔の国鉄カラーだわ」
「まあ、良かったじゃないか」と彼たち。その向うを、聴き覚えのある、鋭い警音が響いて行く。初美は思った。「忘れられないけど、もう泣かない様にしないとね」
(つづく 本稿はフィクションであります 2016=H28,8,2記)

P.S 今回中のJR中央西線 上り特急「ワイド・ビューしなの16号」の運転形態は、2015=H27年夏時点のものです。今春の時刻改正により、大阪~名古屋間の運転が終了、名古屋~長野間の運転に変更されました。

今回の人物壁紙 吉川あいみ

渡辺貞夫さんの今回楽曲「サルヴァドール(Salvador)」下記タイトルです。
Salvador

JR電機 EF64(1000代)の停車中動作音が聴ける画像 下記タイトル。警音は、他機材の可能性があります。
EF64 1014
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