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想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密 第25話「会話」

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7月31日金曜の夕方、JRのN市中央駅に着いた、佐分利学院 特別林間学級の参加四人は、生徒 白鳥 健(しらとり・たける)の伯父 中条 新(なかじょう・しん)の出迎えを受け、健の親許の社業にも使う、トヨタ・ノアに乗り込んで、一旦それぞれ帰宅の途に就く。中条は、先に山音香緒里(やまね・かおり)も話題にした様に、車中でよくジャズやイージー・リスニングなどの音源(ソース)を持ち込んで聴いており、この日は、最も多く持つ、渡辺貞夫のナンバーが聞こえていた。

香緒里「中条さん、本当に『ナベサダさん』がお好きなんですね」「まあ、俺が我国で一番尊敬する音楽家(ミュージシャン)ですからね。ジャズだけでなく、演奏できる分野(ジャンル)も、とてつもなく広いですし」中条が返すと「中条さんがよくお聴きになるの、分りますわ。渡辺さんの音って、何か聴く人の心を思いやる感じの曲が多いんですよね。だから、心地が好いんです」伊野初美(いの・はつみ)も応じる。「そう仰る方、多いですよ」笑顔の中条、話を合せるのも中々に上手い。

車内は、前席に中条と健、二列目は、降りる順に左から初美、箕輪 徹(みのわ・とおる)、香緒里の順に座り、それぞれの居所前で降ろして行った。先に降りる徹、健と翌日の、草サッカークラブ会合の集合時刻と場所を確かめ合って、別れた。

明けて8月1日の土曜、朝方は雲多めも、午前途中より晴れて、暑い日中。初美と香緒里は、午前中にそれぞれの雑用や、帰宅中に済ますべき教科の準備などの後、昼過ぎに、N市中心部の栄町で落ち合い、昼食、買い物などで過ごし、それから市営地下鉄で、N城址近くの、初美の居所へ向かう。落ち着いた所で、香緒里が切り出す。

「今夜は、泊めてもらう事になってるから、林間学級の『夜の補習』をどう終わらせるかを考えないといけないわね。貴方には、相当苦痛かもだけど」
初美「まあ、そんな所かしら。戦争と平和の問題でもそう言われるけど、始めるのは容易(たやす)いけど、終わらせるのが難しいって所はあるでしょうから」
香緒里「あのねぇ!他人事(ひとごと)みたいに言うの、やめてくれないかなあ。貴方は当事者なのよ。そに、この問題は、教え子の彼たちの未来に影を落としかねないって所もね!もう少し、真剣に深刻に向き合う事って、できないのかしらね!」苛立った風情だ。

初美「そう聞こえたら、ご免なさい。でもここは、落ち着いて向き合うしかないでしょ。あたしだって、何も考えてない訳じゃない。彼たちへの影響だって」
香緒里「そうなの、まあ好いわ。けどね、明後日 学級が再開すると、日数は一週間もないのよ。そこは押さえておかないと」暫くの間、こんな感じで、二人の応酬が続いた。

一方の二少年、午前中に草サッカーの練習試合に臨み、昼食を挟んで会合の後、解散間際の健のスマート・ホンに、意外にも養護主任 本荘小町(ほんじょう・こまち)から着信があった。以下、二人の会話を少し。

「白鳥君、休みなのに悪いわね」「いいえ、とんでもありません。何かご用でしょうか?」
「あのね、無理ならいいんだど、あたしこれから、JR中央駅辺りまで外出するの。
君もちょっと出られないかと思ってね。折に話しておきたい事があるの」
「そうですか。申し訳ないんてすが、僕は夕方から、親の用事で抜けられませんで」

「そうなの。残念ね」「本荘先生、ちょっと待って下さい」「いいわよ。何?」
「先生は、確か林間学級に、もう一度来て下さいますよね。その折にお話しではいけませんか?」
「ああ、好い考えね。そうしようか」「僕は、その方が有難いです。後、箕輪には話さなくていいですか?」
「うん。彼には必要ないわ。ただ、電話があった事自体は、話していいわよ」
「有難うございます。じゃ、そのつもりにしてますね」通話ここまで。

実はこの時、健の脳裏には、ちょっと気がかりな想像があった。それは、もしここで小町と会ったら、夏季休講中の学院の構内 養護室に招じ入れられ、今は望まない事態に引き込まれるのでは?との想いであった。実際、この時の小町は、そう言う状況にする事を図っていたのだ。

徹は訊いた。「健、何があった?」 健「大した事じゃないが、小町先生から電話でな」
徹「うん。何か用ってか?」 健「ああ、それで、この後会えないか?て言われるんで、
勘弁してもらったよ」 徹「確かお前、この後、家の用事じゃなかったっけ?」
健「そうそう。だから他事(ほかごと)は入れられないんでね」 徹「じゃ、次は、明日の昼、お前の伯父さんとこって事だな」
健「ああ、そうだね。伯父貴は、俺たちにお昼を奢ってくれるらしいから、期待してようや」
徹「了解!後、どうでもいいけど、初美先生に、一言伝えておかなくていいのか?」
健「いや、有難う。そうだな、SMSだけ入れとくか」初美宛てに送信。馴染みの店で菓子などを買って、二人は別れた。

話を、初美の居所に戻す。先刻の応酬後、何となく、しっくり行かない感じの二女講師。
早めだが、客人の香緒里が先に入浴。健から、例のSMSが届いたのは、幸か不幸かその間だった。
「彼女のお風呂中で良かった・・」読んだ初美、可能なら、すぐ返事を指示。健は応じ、小町から連絡を受け、会見を望まれるもお断りした旨を伝えて来た。「断って、正解だわ」初美はそう返し、詳しい話は、週明けの林間学級再開後に聞く旨、約束した。
この背景には、先日、小町が林間学級出席の折の、徹との交わりが関係しているに違いなかった。

香緒里と入れ違いに入浴。その直前、宅配ピザの大判を注文して、軽い夕食とする。
ピザの届くタイミングに合う様、胡瓜(きゅうり)、人参、セロリの野菜三食スティックと、クラッカーに盛った数種類のチーズを用意して、食卓へ。食後の果物少々が、冷蔵庫で待機。初美が、内輪の集まりに備えて用意していた赤ワイン、A.O.Cマルゴーの大瓶を開けた。
「赤」なら夏場でも、必ずしも冷やす必要はない。何だか、故・植木 等が歌って人気だった「ゴマすり行進曲」中の「手間もかからず、元手も要らず~♪」の節みたいになってしまったが、まあ好いか。

「話は分かった。まあ頂こう」香緒里は、気を取り直した様で、乾杯。初美も、ホッとしたものだった。
香緒里「それにしても、ブルー・チーズかね。匂いきつい。初ちゃん、よくそんなの、平気で食べられるね」
「どうして?匂いはそうかもだけど、口当たりが良くておいしいのよ」初美、ほんの少し気を悪くした風情である。

とまれ、その後は、世間一般の女性向け話題や音楽談義などで過ごしたが、それにしても、この夜の香緒里はよく飲んだ。ワイン大瓶では、女性二人では多いか?とも思ったものだが、気がつけば、幾らも残っていなかった。

「初ちゃん、今夜は飲み明かすよ!もう一杯注いで!」完全に酒気の回った香緒里。
見かねた初美「もう、やめなさいよ。女の酒が強いなんて、自慢にならないわよ」諭すも「いいから注げよ!」
と居直る始末。「仕方がない」初美は、残りグラス一杯となったマルゴーを、全部 香緒里に注いでやるのだった。瓶の底の、滓(おり)などの成分も一緒だったが、酔った香緒里に、そこまでは分るまい。
(つづく 本稿はフィクションであります 2016=H28,8,4記)

今回の人物壁紙 AIKA

渡辺貞夫さんの今回楽曲「ダズリング(Duzzling)」 Casiopeaとの共演 下記タイトルです。
Duzzling
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