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パノラマカーと変な犬 第54話「二心」

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雲多く、時折日の射す 不安定な夏空の下を、名豊電鉄の特急列車「パノラマ・スーパー」は快調に走った。前端に展望席を設けて人気を攫(さら)った先代車両「パノラマカー」原型車の後を襲い、現在の特急列車の主戦となる これも人気車種だ。

「パノラマカー」原型車は、数年前までに 惜しまれながら全量が引退したので、今はこの「パノラマ・スーパー」がパノラマカーの立場という事になる。そのせいか、最近行われた 内装メインのお色直し「リニューアル」でも、心なしか先代「パノラマカー」に近づけた様な意匠への変更が行われている様だ。この日、三人が乗る便もその内の一隊。もう一つ、事故防止策として備えられた音楽警笛・ミュージック・ホーン(以後「音笛」と略す)も先代譲りといえる。

「やっぱり、高い位置の眺めはよろしな~!」先頭の展望席左側に陣取る由香・由紀の姉妹は、唸る様に呟く。「そうだろう。ここからの眺めは、絶景とは言わんが、ちょっと好い感じ・・でな」と中条。20席ほどの展望室は 後列も八分通りの客の入りだが、最前列を三人で借り切っている事は、既に記した。

「実はな・・」中条は続けた。「俺の気になってる事はと言えば~・・」言葉の途中で、最初の停車駅 金山が迫る。と・・例の吹奏が始まった。「ミ~ド~ラ~ミ~ド~ラ~♪」で始まる、あの旋律。「ハハ・・やってくれたわ!」 「あは、なる程。伯父様は このミュージック・ホーンの吹奏を楽しみにしてはるんですね」由香が返し、隣の二面が窓に面した席の由紀も、頷いて応じる。

中条「そうなんだよな~。運転士(ドライバー)の判断次第ってとこもあるけど、この音笛が鳴るのが、乗ってる時の楽しみでさ。以前は、俺たちが乗った 中央駅地下プラット・ホームでも鳴らしてたね」 「さよですかぁ、さっきは鳴りまへんでしたなぁ」由紀が応じると 「うん、それ・・近頃は携帯やスマート・ホンでの会話が増えたんで、それが聴こえ難いってのと、駅の案内放送も、よく聴こえんとかの苦情が出て止めになったとか聞いたな」 

今度は由香が「ああ、それか・・つまり、時代が変わったんで対応したって訳ですね」 「まあ、そういう事だな。ただ、地下の所と、これから行く吉田の終点近く以外は、今でも鳴らすことがあるな。元々は踏切事故とかの対策ってのを聞いた事があってな」 「ああ、踏切事故ね。中には深刻なのもあるよってに。それと、通過する駅でも、結構危なそうですね」 「良いとこを突いたな。それもある」

N市の中心部を抜け出した列車は、中部国際空港を擁する C半島方面への多くの列車を捌く為の 短い複々線の区間を通ると、一旦高架に上がってもう一度下る。中々踏切が解消せず、安全上の要注意箇所だ。そこを抜けて暫くすると、もう一度新しい高架に上がって暫く後 地平に戻り、交互に現れる、東郊の住宅地と田園地帯を抜けて行く。

「解放感があって、好い感じやわぁ!」速度も 上限の 120km/Hに上がる往路の中程。姉妹も 飛び去る風景に目を遣りながら上機嫌である。又 この日は、中条が気にする音笛がよく鳴った。少し大きい駅の通過、或いはやや見通しの利かないカーヴ区間に近づいた時など、この日の運転士は音笛をよく鳴らした。中条は姉妹に「いいか、運転の方は、貴女たちの直ぐ前にいらしゃるんや。ホント Good Job!」笑顔で返す 姉妹の様子を見て、前下方の運転席辺りへ向け 両手の親指を突き立てて運転士の好プレイを称えた。

A県の中程を流れ下る Y川を渡ると、中条の生まれた三河の地へ入る。まず左手に、著名な戦国武将も拠点にした O城址が姿を現し。市街地を抜けると、再び田園だ。暫く行った所の高台にに、全世紀末に設けられた 舞木(まいぎ)検査工場が広がり、整備に臨む 名豊電鉄車両が複数集まっているのが認められ。これを眺めるのも、中条の楽しみの内だった。

道中、姉妹と男は勿論 夜の成り行きがどうなるかも語り合った。由紀が「あは~、今夜は 周(あまね)さんの『男』に会えるよ~ん!」と、笑いながら言えば、姉の由香が「何言うとんねん。周君のお竿は、あたしと先に会うねんで~!」少しムッとしながらも、笑って返す。対する妹「ほう!・・んで一体、お姉ちゃんのどこと会われはるんでっか?」と、突っ込み気味に問えば 「そないな事 今、言うんかい!?」と、語気強くも やはり笑って返し。それをニヤニヤと聞いている中条、由紀に「大声じゃ言えんが『コソコソ』なら OKだろ。さて由紀ちゃん、どこかな?」と嫌らしく問う所へ、一度席を立った妹、男の耳元でこっそり囁く。「それはね、オ・メ・コ・・」

「ハハ、思ってても言わん事を 遂に・・」中条は、その事を由紀に囁いて返したかったが、果たせなかった。その挙に出ようとしたその時、又も列車の音笛ミュージック・ホーンが奏でられたのである。一般人なら腹を立てるレベルかもだが、そこは理解ある中条「まあ、仕様(しゃあ)ねぇな・・」そう思い、矛を収める事に。そうこうする内、一時間にも届かぬ旅は、吉田駅進入で幕となる。

「いや素晴らしい走りだったわ!わざわざ特別料金で、展望席に乗った甲斐があったってもんだぜ!」佳き眺めと、十数回にも及ぶ音笛の炸裂に満足した三人は、吉田駅から路面電車に乗り換え、周の実家近くの井岡という地を目指す。距離にして数km、20分足らずの乗車時間である。前世代的、レトロな電車の出現を予想したのだが、やって来たのは中央の床が低い、割合新しめの車両。走行音も静かだ。

「路面電車でも、世代交代ってあるんやね~」感心した様に 姉妹が声を揃えると 男は「うん、まあ新幹線とか、さっき乗った大私鉄程じゃねぇけど、徐々に進んでるのは事実だな」と返事。三人が乗った便は7~8割程の乗車率で、行き違う反対方向の 吉田駅前行には 新旧様々な車両が入っていた。街中に目を遣ったり、ちょっとの雑談に耽る内 井岡電停着。

「お疲れ様です。お待ちしてました!」電車を降りると、電停の安全地帯反対側に、元気に挨拶する 周の姿がある。中条たち同様の、Tシャツにジーンズ、サンダル履きの平装だ。「ああ有難う。ちょいと邪魔するよ!」青信号になると 先に由香、由紀の姉妹を横断させ、後に続く中条 返事をす。周の実家は、電車通りからほんの数十m北側の、住宅地にある。戦前家屋の面影を残す、割と大き目の二階家だ。父の傑(すぐる)と、母の梨恵(りえ)が、ここで先代から続く 麺類メインの食材問屋を営んでいる。その為 傑は蕎麦(そば)の手打ちとかができるのだ。下級生、豊野 豊(とよの・ゆたか)と同い年の弟・温(あつむ)もいるが、この日は高校の部活で出かけていた。

「お邪魔します!」 「ようこそ、いらっしゃいました!」徒歩でほんの2~3分、周の両親と初顔合わせの三人、まずは 定石の挨拶から。「中条でございます」 「阿久比 周(あぐい・あまね)の両親です。日頃は、息子がお世話になってまして・・」 「こちらは木下由香さんと 妹の由紀さん。周君も参加の、夏季学術交流行事に参加されてまして、こちらに出る機会がありましたんで、同時にご挨拶です」これを受け 「どうも初めまして。木下由香です」 「妹の由紀と申します」姉妹はこう返した後 「今日はどうも、お世話をおかけします」と続けた。

周の両親は、三人の挨拶を快く受けてくれ、その後「ちょっと、店の方を私らの親たちに頼んで来ますから、どうぞ皆さん、暫く上階で一服して下さい」 「はい、有難うございます!」 来訪の三人は、周の案内で二階の客間へ。最初のお茶出しも、周の役目だった。階下の厨房辺りから、鰻(うなぎ)蒲焼のタレの様な匂いがして来た。

周の親元 阿久比家に着いて一時間足らず。隣家に住む 父方の祖父母に店舗の引継ぎを終え、中条が 彼の妹夫婦から事づけられた日本茶などの土産を納め、周の祖母が用意してくれた鰻重に肝吸い、もずくで 六人が昼食。初めは、周の近況や、姉妹との共通話題である、学術交流の様などが語られ、次いで中条が、己の仕事の状況をざっと報告するなどした。「ご馳走様でした!」半時余りのランチ・タイムを経て・・

「伯父さん、ちょっといいですか?」周が 中条に向けて言った。聞いた彼は「うん、何かあるかい?」 周「実はですね、ちょっと隣室でお耳に入れたい儀がありまして・・」 「分かった。そっちで聞こう」 これを受け、周は「母さん・・」と、母・梨恵に声をかけ。「うん、何かな?」 「ちょっとの間、隣室を借ります。何、ほんの 10分位だからさ」 「それはいいけど、お茶入れ直したりはしなくていいかな?」 「大丈夫。今 あるので都合するから。それと、その間 由香さんと由紀ちゃんの話につき合ってくれますかしらん?」 「ああ、良いよ。あたしも話がしたい位だからね(笑)」 

聞いていた中条も「お母さん、どうかお構いなく。自分も、周君と同じでよろしですから・・」 梨恵「そうですか。どうも恐れ入ります・・」 母が、姉妹との話の輪に戻ったのを見届けた周「じゃ由香さんと由紀ちゃん、ちょっとの間 母(おふくろ)と話をしてて欲しい。俺は、伯父さんを借りて、その間 伝え事をして来るから。直ぐ戻りますよ」 聞いた由香「了解。間違いなくお話してな」傍らで、由紀も頷く。これを受け、男二人は隣室へ。「よしゃ!周君、話を聞こうじゃんか」中条の言葉に、周は「かしこまりました。実はですね・・」と切り出した。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の壁紙 名古屋鉄道(物語中 名豊電鉄のモデル) パノラマSUPER 上り豊橋(物語中の「吉田」)方先頭展望席からの眺望
名古屋鉄道・名古屋本線 本宿~名電長沢間 岡崎市本宿(もとじゅく)町付近 2017=H29,2 撮影 筆者

名古屋鉄道の特急電車「パノラマSUPER」他の音楽警笛ミュージック・ホーンが聴ける引用動画 下記タイトルです。
Meitetsu Panorama Express
中村由利子さんの今回楽曲「ロマンス(Romance)」下記タイトルです。
Romance
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