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想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密 第30話「波紋」

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星降る空と、蛍の舞のコラボ・ショー見物。その後暫し、日中あった事の雑談を交えての、香緒里のピアノと初美の歌唱の、これもコラボ・ショーに耳を傾ける。こちらの演目は、演歌とジャズが主だが、少年たちにも聴き覚えのある曲が選ばれた。心地良い音と共に、就寝。これを見届け、寝間着姿の初美と香緒里は、講師の寝室で、暫し寝酒 グラン・マルニエのロックを嗜みながら会話。

香緒里「実はね、初ちゃん」 初美「はい。何かしら?」 香緒里「今日の昼間、車でこちらへ向かう途中のR19で、後続車が、ちょっと気になる動きをしたのよ」 初美「それ、聞いておいた方が良いわね。どんな風だったの?」
香緒里「親類の家を出て、側道から国道に合流して暫くの所で、路肩の駐車帯に停まってたその車が、私が通過してすぐ、急発進して、私の車の直後まで急接近して来たの。車間が縮まって危なかったから、私は、このすぐ川下の集落の道に入って、追跡を断とうとした訳」 初美「なる程、それでどうなったの?」

香緒里「集落の途中まで追って来て、気味が悪かったので、もう一度国道へ戻って、ここのすぐ下の「道の駅」で警察を呼んでもらおうと思ったの。駐車場で、車に乗ったまま様子を見てたら、そのまま、川上の方へ走り去ったわね」
初美「それはご苦労様。その後、ここまでに待ち伏せとかされたって事は?」 香緒里「それはなかった。だから、私がここにいる事までは、分らないと思うけどね」

初美「その車が発進の時、貴方がそれを妨げる形になった、なんて事はないかしら?」 香緒里「私は、そんな事を露骨にした覚えはないど、相手から見た場合は分らないわね」 初美「それにしても、急に車間を詰めたり、側道まで追っかけなんて、質が悪いわね。車種は何だったの?」 香緒里「多分、トヨタ・エスティマ。色はシルバー・グレーだったと思う」
初美「中条さんがよくお乗りの、レクサスより明るめのシルバーね。ナンバーは読めなかった?」
香緒里「よく見えなかったけど、『N』か『O・K』かな。ここの県ではなかったみたい」

初美「まあいいでしょう。明日、小町さんがいらっしゃったら、話さないといけないわね」 香緒里「まあそうね。私も、身に覚えないし。もしかすると、雑誌とかメディアなんかの偵察なんて線も、なくはないわ。余り神経質になる必要はないけど、こことR19を結ぶ側道の様子位は、要注意かしら」 初美「それと、夜のセキュリティもね」 香緒里「そうそう。人の出入りが終わった、夕方から翌朝までは、必ず入れないとね」

そこへ、示し合せた様に、セキュリティ・システムの警報(アラーム)が鳴り、表示(ディスプレイ)が点灯した。今度は、香緒里がすぐ防犯カメラのモニターをチェック。見た所、鹿の様な動物が逃げ去る所。不審者ではない様だ。一度は就寝した少年たちも、規則通り、講師の寝室へ出向く。「何かありましたか?」

ほぼ同時に電話が鳴り、契約の警備企業担当より、状況確認。「動物だったから、大丈夫よ」彼たちには初美、警備の担当には香緒里が対応し、装置をリセット、様子を見る事で落ち着いた。その上で、明日から参加の、養護主任 小町にもSMSで報告。彼女からは、三女講師の揃う、明日昼間に状況を聞く旨、返信あり。
「改めて、今日もお疲れ様でした!」「お休みね!」二度目の終礼を経て、二少年は生徒の寝室へ。
「それにしても」香緒里は思った。「これが、あの『夜の補習』を終わらせる一助になってくれれば嬉しいわ。いつまでも、彼女と彼たちに、あんな事をさせていてはいけない」もう少しだけ寝酒を嗜み、二女講師も就寝。星空と、蛍の舞う眼下を、JR中央西線上り貨物 5880列車が通り過ぎる時分だった。

明けて、8月5日の水曜。二少年の、午前6時前起床はいつも通り。日課にしていた草サッカー朝錬も、この朝が最後。シャワーを経て朝食の席で、香緒里より、前日遭遇した、不審車の情報が、少年たちにも伝えられた。「う~ん、危ないなあ」二人とも、率直な感想。
香緒里「とまあ、そんな事があったって事。余り心配しなくて好いけど、もしも川へ出かける時なんかは、念の為、注意してくれると有難いって事よ」 二少年「分りました。後一回は出かけますから、その時は気をつけんといけませんね」

この日の教科は、午前の二限とも香緒里が担い、集中して遅れを取り戻す様努めた。初美は、その間に少年たちの手が回らない所の掃除や、昼食準備などの雑事を進める。11時半頃、いつもより遅れて、早瀬管理人夫妻と小町が到着。
「本荘先生、お疲れ様です。宜しくお願いします!」「管理人さん、今度も、お迎え有難うございます。皆、元気そうで何より。あたしは、今日から最終日までいるから、大丈夫よ」

何故か、生徒より講師の方が大人数と言う、珍妙な光景となった林間学級。早瀬夫妻を含め、七人での賑やかな昼食となった。席上、香緒里から、昨日の不審車の一件が報告された。それを聞いた、早瀬管理人が一言。
「そうですか、それは大変でした。R19は御存じの様に、長距離の大型車もよく通るので、大きな事故も時々ありまして。それでいて、特に県外のドライバーのマナーが、決して良いとは言えません。山音先生が昨日遭われた件も、或いは、発進に絡むいざこざかもですな」 香緒里「本当にねえ、早瀬さんのお言葉通りだと好いですが」
初美「ですが、もしかすると『雑誌筋とかの偵察』て線も有り得るって事で、一応用心しようって話になったんですの」「なる程ね。あの連中『覆面で取材』て事もある様だって、私も聞いた事がありまして。そりゃ、用心に越した事はないですよ」夫人が合わせる。

健(たける)「僕たちも、車に乗せて頂く時は、気を付けた方が良さそうですね」 徹「まず、シート・ベルトは必着ですよね。あ、いざとなったら、すぐ外せる事も大事かな」
早瀬「皆さんもご存じでしょうが、箕輪君の言葉通りで、シート・ベルトは必ず締めて下さる様お願いしたい。私は昔、これがなかったばかりに、親類を事故で失っていますので」「管理人さんにも、悲しい昔があるんだ」二少年の心に、こんな想いが刻まれた。
もう一つ、一限目の授業に入って間もなく、普段聞こえない時刻に、JR中央西線下り方面への列車走行音があった。「臨時貨物 6883が動いたな」少年たちは、そう言い合った。

食後の屋内。「二人、これからお昼寝する事。理由は、分るわね」初美から、午睡を命じられる二少年。「分りました。それでは・・」生徒の寝室で、暫しの眠り。その間に、三人の女講師は、教室に集まり、林間学級終盤の打ち合わせ。
小町「とに角、香緒里はご親族の事と、貴方自身が、こちらでしなければならない事を終わらせて欲しいの。その為に、今日夕方から明日昼までの時間は差し上げる。あたしもいるから、安心して、そちらの方に取り組んで」
香緒里「有難う、分りました。明日戻るまでに、全部片付く様、段取りしますわ」 小町「了解。往来はどうか、気をつけてね。昨日の事を聞いて、あたしは少し思い当たる所あるんだけど、それは、明日話すわ。だから、今はそちらに集中して」
香緒里「はい、感謝です。じゃ、私はそろそろ準備するね」こう言うと、席を外し、川下の親類宅へ向かう手回り品などをまとめ始めた。

「初美」小町が呼んだ。「今度は、貴方の話を少しね」 初美「OK。ここで好い?」「好いわ。今夜の話をすると、貴方が怒るかもだけど、この前一度帰った時、白鳥君と、会えなかった時の話がしたいの」 初美「何となく分るわ。まあ、内容までは立ち入らない」
小町「そうしてくれると、有難いわ。こう言えば分ってくれると思うけど、今夜、貴方は箕輪君の話し相手になってくれないかしら?」
「好いわよ」気のなさそうな返事の初美だったが、実は、心にときめく何かがあったのも事実だった。それは後程。

午後4時頃に香緒里が、その直後に早瀬管理人夫妻が中山荘(ちゅうざんそう)を離れる。健は、小町の夕食準備の応援。「ねえ健君。今夜は、この前できなかったお話をしようね」 健「そうですね。楽しみです」笑いながら返すも「果たして、面白話だけで終わるかな?」の想いも。小町が続ける「冗談でも好いからさ。今、あたしに告白してくれないかなあ」「え、今ですかぁ?」「勿論、今でしょ!」
「おいおい、昼間からかよ」と思いながら、健は言った。「小町さん、好きです」「もう一度欲しいわ。元気にね!」「小町さん、好きです!」「OK。続きは夜ね!」「あ~あ、一体どうなる?」健は、些か不安になった。

一方の徹、入浴準備を進める。好い湯加減を確かめ、浴室の整頓に入った所へ、意外にも、初美がやって来た。
「徹!」驚く彼に、師は「君は、暫くあたしに言ってない言葉があると思わない?寂しいわ」「あの・・まだこんなに明るいですが」徹は、とぼけた様に返した。すると「言葉だけなら今だって好いわ。さあ、思い出して!」「何だろう・・」想いを巡らし「これかな・・」思い当たるも、昼間は、口にするのが憚られる言葉だった。

「あのさ!こんな素敵な事が、なぜ思い出せないの?」初美、苛立った風情。困った徹、思い切って口に・・。「初美さん、好きです」
「もう一度くれる?元気にね!」彼は再び「初美さん、好きです!」「よろしい。続きは夜よ。楽しみだわ」
「暗くなるまで待って」そう言いたいのは、徹の方だった。
(つづく 本稿はフィクションであります 2016=H28,8,17記)

今回の壁紙 JR中央西線 名古屋~金山間 名古屋市中区 2016=H28,3 撮影 筆者

渡辺貞夫さんの今回楽曲「オン・ザ・ウェイ(On The way)」下記タイトルです。
On The way
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