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レディオ・アンカーの幻影 第6話「変更」

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「ああ、理乃ちゃん・・」とっぶりと日が暮れ、暗くなり始めた JRの O駅まで間近に来た所で、前嶋は歩を緩めて声をかけた。「はい、何?」の返事に 「さっきの事、ちょっと考えたんだが、別に金盛副都心まで戻らんでも良くね?」一呼吸の沈黙を経て 「あは・・それもそうだね」と理乃は返した。

前嶋は続けた。「何度かここに降りてるけど、大丈夫。居酒屋や洋食店レベルのとこなら食事にも困らんし、宿もビジホなら二、三軒知ってる。今夜は土曜だから、金盛まで戻ると 社の連中が何人か繰り出してるかも知れんしね」 理乃「ふふ、それもありね。どうだろ、ホテルの部屋抑えてから出かけたいな。それで良い?」 「OK。それで決まりだ」

そのまま列車に乗り込めば、ものの十数分で金盛副都心まで戻れる所を、そうはせずに改札口前のベンチに陣取った二人。前嶋はスマート・ホンのアプリで当該ホテルの予約を試む。土曜夜は郊外といえど、ツインやダブルの二人部屋は混雑しがちだが、運良く至近の宿にセミ・ダブル一室を押える事ができた。O駅の直ぐ北側に位置する。

「よしよし・・」彼は呟いた。「この辺からウチの社に通ってる人間っていたっけ?」 「そう。一人二人いるけど・・」訊かれた理乃は、社員の名簿など個人情報にも通じていた。「でもまぁ、大丈夫でしょ。皆 親元通いだし、今頃の時間も出かけずに、家に居るんじゃないかな?」

「そうか、有難と・・」と前嶋。「それにしても、土曜の夜なのに出かけずに 家で TVやゲーム相手に燻(くすぶ)ってる奴もいる訳ね?」 「まぁ、そんなとこね。さぁ、ここか・・」駅舎を出て、ものの二、三分で当該ホテルに入った。「丁度好い位置だな。余り目立たない割には設備や係の応対も良いんだ」 「そうみたいね。後は、夜中が静かだと良いなぁ・・」そう言い合いながら、二人は上階の部屋へ。

「忘れそうだったけど・・」そう広いとはいえないセミ・ダブルの部屋に落ち着くと、前嶋が言った。「理乃ちゃんは、着替えは大丈夫なの?」 「あぁ、それね。訊くと思ったわ」そう返す理乃は、やや呆れ顔だ。「何とかなるわ。悪くしても大抵の物は近くのコンビニで置いてるし、それに貴方は 少し位匂いのついたのが好いんでしょう?」明らかな突っ込みだ。

「あぁ、その匂いね。HENTAIと言われそうだけど、好いですねぇ~!」聞いた前嶋は、わざと少し狼狽(うろた)えたふりで返した。「ほら、やっぱり・・」呟く様に応じる理乃だったが、顔は微笑んでいる。この先予想される進行に対し、満更でもなさそうだ。「どうしような。先に夕飯済ませてからゆっくりするか・・」少しおいて、前嶋が訊く様に言った。「そだね。それが良い」理乃は落ち着いて返した。

まだ時間が早かったせいもあって、O駅近所の居酒屋はさほど混んでいなかった。「よしっ、騒がしくなる前に済まそうや・・」煮物、焼き物、揚げ物を初め総菜が幾つかと生ビール、サワーでの夕食を早めに済ませた理乃と前嶋は場所を変え、これもすぐ傍の老舗喫茶店に場を移す。各席の仕切りが高く 昼は家族連れ、宵の口はカップルに支持されている様だ。まだ暑さには間がある。二人共ウィンナ・コーヒーのホットを嗜んだ。

前嶋は「少し勇気がありゃ、ここで接吻(キス)とかの前戯が一定はできるんだが・・」そう想いを巡らせながら 「しかし待て!」と直ぐ抑えた。対面の理乃は、彼との会話の合間に、備え付けの映画雑誌に目を走らせている。「もしも彼女が同意したとしても、思わんとこで大声を出されるかも知れん。時折店員もホールを巡回しとる様だし、やはりこの考え、拙いな・・」

初めの目論見をリセットした彼は、次の考えを巡らせ始めた。「この店の入る建物に隣接して、住居ビル(つまりマンション)が建つ。ここは意外と保安(セキュリティ)が緩くて、外部の者も EVで屋上へ行ける。よしゃ、前戯はここにするか・・」気持ちを固めた彼は、そっと理乃の顔を流し見した。そして言った。

「理乃ちゃん、ちょっとよろしか?」 「はい、何」?返事を得た前嶋は「もう夜も好い時間だし そろそろ部屋に落ち着きたいけど、その前にちょこっと夜景が見たくてさ。そこだけつき合ってくれるかな?」 「良いよ。ちょっとの間でしょ?」 「その通り!」前嶋の驕りで勘定を済ませて店を出たのは 9pmに近かった。

「直ぐ傍だよ。この建物の上さ・・」頷いて返す理乃をチラ見しながら、前嶋は先に立って EVに乗り込む。14F建て高層住宅の屋上だ。「ここは、ウチの社の奴住んでないかな?」念の為問うと、理乃の返事は「大丈夫。住所見たけどこの建物に住んでる関係者はいないし、出入りする可能性もなさそうだわ」であった。

晴天もあってか、屋上から見下ろす O市の夜景は中々であった。北の方は隣接の大都市 N市の街灯りで星空を拝むのは難しいが。眼下を JR東海道線の列車が光の帯を成して行き交い、主要道路の車列も華やかに流れる。少し遠方に目を遣ると、東海道・山陽新幹線の速い光の流れも目に入った。それを理乃は「あ、のぞみさんが走ってく!」と冷やかし気味に歓んで眺めたりした。

「まぁまぁ・・」と宥(なだ)める様に、前嶋も反応した。ここは外からの出入りもできるとあって、地元カップルには結構知られるスポットらしいが、この夜のこの時間に上ったのは 理乃と前嶋だけだった。「理乃ちゃん、そいじゃ・・」 「はい、あの事?」その出方を確かめて、彼は理乃の唇を奪いにかかる。「ホントに、誰もいない?」 「勿論!いませんよ」そう返しながら前嶋は、がっちりと抱き留めた理乃の身体を上から下へと摩(さす)りを入れ始める。やや強引だったが、女の側からもそう不快ではなかった。

「いや、ちょっとやり過ぎたかな。ご免なすって・・」最初の接吻(キス)を区切った前嶋は、一言詫びるもその終わりで微笑した。理乃は「まぁ良いわ。外で許せる限界やね。むしろね・・」 「はい・・」 「これからのお部屋の展開が楽しみになって来たわね・・」 「あぁ、そう思ってくれりゃ、有難い・・」そう返す前嶋だったが、そうなると彼女の「その方」の期待にも応えなければならぬ緊迫感に囚われるのであった。「さぁ・・」彼は気合を入れ直そうとした。「これから、どうリードしてくか・・。でも・・」同時に、芳しからぬ想像も起こってきた。「彼女の体臭を感じさせる下着も佳(よ)し・・かな」
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 桃乃木かな
日野皓正さんの今回楽曲「スウィート・ラヴ・オブ・マイン(Sweet Love of Mine)」下記タイトルです。
Sweet Love of Mine
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