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この雨は こんな風に聴こえる 第1話「遭遇」

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「さて、そろそろだな・・」曇った 6月初旬の某日、名社・熱見神宮近くの JR東海道線沿いで列車の通過を捕捉すべく デジタル一眼カメラを三脚に仕掛けた男は、そう呟く。彼の名は 黒木 恆(くろき・ひさし)。ちょっと前まで自動車部品関連の営業職だったのだが、訳ありで退社、この時は就活中であった。次の進路を探すべく、企業を周る合間にカメラとかを持ち出しては列車や艦船、航空機の画像を撮り歩くのが習慣だった。

時刻は 10:40am。標的の長距離貨物便、第 5087列車は 時刻表通りなら数分後に彼の眼前を通る。三脚を構える線路沿いは、住宅マンションなどへの出入りの為の取り付け道路。線路の反対、建物側だけに歩道がある。この時は新たな入居者があるらしく、黒木の立つ右後ろの歩道沿いに引っ越し S社の 4tトラックが横付けされていた。後方にパワー・ゲートを持つ車型で車体はウィング式も、後方のリアドアだけ開ければ用が足りる風情。係員は 黒木と体格の似たグレーの作業衣上下に作業靴の男二人で、二十代位の若手が運転している様だった。もう一人が四十代位で、現場指揮を執る方の様だ。

「おい、こら!」作業の合間に、年長が若手をドヤしている。「エンジンを停めんか!」 「どーも済みません・・」促された若手が一旦運転席(コクピット)に速足で向かい、トラックのエンジンが止まる。黒木が現場に着いてからほぼ 10分間程、エンジンは動いていた事になり、ディーゼルの排気は正直、彼の鼻や神経にも来ていた。「良かったよ。このままだったら 又頭が痛くなるとこだったぜ・・」

そうこうする内に、列車の近づく時刻が来た。前後して、右手後方から若い女がジョギングをしながら近づいている様なのが分った。住宅マンションの奥は警察用地の様になっているが、歩行者と自転車は通り抜けができるらしい。歩道は依然として トラックから降りた引っ越し荷物が占拠している。「このままだと・・」彼は思った。「すんなり歩道を走り抜けるのは無理・・じゃないかな」

それから直ぐ、男の視界右手奥から閃光が一つ、又一つ発せられた。例の貨物便が近づいて来た様だ。この第 5087列車は北海道中部を前日の未明に発ち、函館→室蘭→函館の各 JR線を縦走した後青函トンネルを経て2つの第三セクター線と東北線、それに東海道線を経て大坂近郊の貨物駅へと至る長距離便。特に東海道線内を旧国鉄電気機関車が先導する事で、鉄道ファンには人気の列車だ。黒木の赴いた現場も、週末などは数人の撮影者が集まるが、この日は彼一人だった。

2つの閃光が はっきりと列車の先頭と認められるのと、例の女性ランナーが歩道に差し掛かったのがほぼ同時。「頼むから、何とか歩道からそれないで欲しい。この瞬間だけは、邪魔しないでね・・」内心哀願する様に、モーター・ドライヴ連写の態勢に入る。先導の機関車がはっきり視界に飛び込んだ。抜群に黒木好みの 紺色基調に運転台周りに薄いベージュを配した 往年の国鉄外装。続くコンテナ車の積荷状況も満載に近い好ましさだ。

「よしっ、さあっ!」そう気合を入れた黒木が右側から衝撃を感じたのは、シャッターに手をかけた直後だった。「ドン!」という衝撃と生暖かい感触。明らかに車や自転車に当たられたのではなかった。「あっ、うっ!」黒木のものではない高めの呻きを伴い、押された彼は思わずよろめいて傍らの金網(フェンス)に倒れ込んだ。その傍らを、総重量(GVW) 1000t超の列車がほぼ時刻表通り 轟然と駆け抜けて行った。

「ご免なさい。急にボーっとしちゃって・・」姿勢を立て直した黒木に向かい、淡色のトレーナー上下にジョギング靴姿の若い女が、頭を下げてきた。ポニー・テールの様に後ろで結んだ髪は長めのほぼストレート。少しブルネットっぽい感じだ。「いやいや、気にしてない。俺は良いけど、貴女 大丈夫?」男だったら怒り心頭となる所だったが、黒木は何とか己を鎮め、相手の女を気遣う余裕を見せたかったのだ。

「ええ、お蔭様で無事みたい・・」彼女はそう返した。状況はこうだ。黒木が通過列車を捉える数十秒前、ジョギングの女が歩道に入ったのだが 前述の通り引っ越し荷物が占拠していて通れない。そこで彼女は道の反対側に移り、構える黒木の姿を認めて後ろを抜けようとするも、急な眩暈に襲われ そのまま彼の右側をヒットしたという所。転倒の恐れもあったが、傾いて金網に絡んだ三脚が女の上体を支え、転倒を免れたという風情だった。

「顔をぶつけなくて良かった・・」黒木、思わず呟く。「分かるわ。あたしもそれが怖かった・・」隣に立った女、そう返す。「ちょっと待ってね。カメラが無事か 後で念の為見てみるから・・」 「ええ・・」言葉少なも、異常がないかを懸念する様子がありありと分かった。少しして、男は言った。

「多分だけど、大丈夫だと追う。それにね・・」 「はい・・」女が返すと 「目標も、曲がりなりにも写せたから、そっちも問題ありませんな。念の為、点検してもらうけどね・・」 「分かったわ」 「ところで・・」 「はい・・」 「貴女の事、まだ何も訊いてなかったね。時間はあるの?」 「うん。用があるのは午後からだから、良ければお昼位一緒できるかもよ」 「そうですか。そいじゃ・・」黒木は女を促して歩き出したが、姿勢替えの時、アッパーから覗いた胸の谷間に一瞬魅せられたのも事実だった。「おー、好い感じ・・」ついでに、甘く香る微かな体臭にも惹かれ・・。

黒木が案内した 老舗の喫茶兼洋食店は、徒歩で数分の熱見神宮至近の場所。彼は、この店のオムライスが好物だったのだ。道中から少しずつ話を進めていたが、まだ混雑前の店に落ち着くと、彼らは踏み込んで話し出した。女の名は平 宥海(たいら・ゆうみ)と言って年齢は二十代半ば。N市屈指の名門女子大在学中から気象予報士の試験に取り組み、在学中に一部科目を突破、この年初に全科目をクリア、一般企業を経て 今は気象関連企業に勤める傍ら 民放 TVの天気予報などにも出演する事が分った。

「ハハ、なる程。そいじゃ俺も、無意識の内に貴女の番組を見てるかも知れないね」いつものオムライスのセットを嗜みながら、黒木が言った。宥海も又、彼の熱い勧めで同じオムライスのセットを味わっている。そして「そうそう。今日も夕方と夜出るから、是非見て欲しいわ」 「分かりやした。多分時間は取れるだろうから、楽しみにしとくね」

日本女性固有の清楚さと、今風の都会的雰囲気が絶妙にバランスした美女を前に、黒木はもう少し引っ張りたい想いもありはしたが、しかし「のっけからしつこいのはいかん。今日は様子見て、適当に帰そや。とりあえずは彼女の顔覚えて、夜の『オカズ』にでもさせてもらえば良い・・」肩肘張らず、強引な出方は避ける事に。それでいて SNSのアドは抜け目なく聞き出した。「そうそう、これからじっくり攻めるって事よ。まぁそれが叶えば、カメラがぶっ壊れてたって、恨んだりはしないさ・・」

洋食店での会話は 食後のコーヒーを伴い、予想に反してほぼ 2Hに及んだ。「さてさて・・」黒木はそろそろ解散に振ろうとした。「宥海さんも、番組の打ち合わせとかあるんでしょ。早めに入った方が良くね?」聞いた彼女は「あっ、そうそう!訊いてくれて有難う。そうなの・・もう少ししたら TV局行かないと、打ち合わせがあるんだわ~!」そう言いながら、割り勘に動こうとするのを黒木が止めた。「今日は、任せナ・サ・イ!」 「有難う。ご馳走にまでなっちゃって。悪かったわね」 「い~や~、気にしない!又、次があるからね」彼が解散を促したのは、間もなく降雨になりそうな空模様を感じての事でもあった。局へ向かう時、宥海は意味ありげに微笑みを送ってきた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 愛音まりあ
今連載の「音」リンクは、雨に纏わる内外の楽曲を取り上げたく思います。
まずは「雨に歩けば(Walk Between Raindrops)」 by Donald Fagen (下記タイトルです)
Walk Between Raindrops
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