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この雨は こんな風に聴こえる 第30話「場所」

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多くの企業が株主総会の時期を迎える 6月後半は、未だ定職に就けない黒木を除いては、皆それぞれに忙しい様だった。彼の本命たる女流気象予報士・宥海(ゆうみ)との往来も 土休日の日中に一度や二度会う機会がありはしたが「夜の方」は暫く間が空く事になった。これは彼女の妹・麗海(れいみ)にしても似た様な状況だったが、こちらはなるべく弟・存(たつる)に関心が向かう様仕向け、極力自らは直に取り合わぬ様心がけた。

「上手い具合に・・」彼は呟いた。「今ん所、麗海(かのじょ)の気は存(タツ)に向かっている様だ。6月中は無理かもだが、そんな間に宥海さんとの仲を少しでも深められりゃ、まぁ〇だ。麗海(かのじょ)の『料理』は、又近く存(タツ)と会って詰めりゃ良いって事で。それより今は、少しでも就活を進めんとってのも事実だな・・」

実際、進路の方も幾つか選択肢が見えてきてはいた。週になるべく多く応援する様にしている、伯父の不動産事務所に正社員として入る。但しそれは、司法書士試験突破が条件だったが。それについては伯父の盟友・巽 喜一(たつみ・きいち)弁護士も援護の意向を表していた。「司法書士免許目指すなら、折々僕の事務所に勉強に来れば良い。ただ 一定雑務はこなしてもらうけどな」とかで 中々にハードルは高かったが、一定の希望と目鼻が付き始めているのも事実だった。

明けて 7月、依然として曇りや雨の 梅雨らしい空模様が続いた。前月末の土曜夜、黒木兄弟はいつも通り馴染みの和食処で酒食の機会を持った。その折 麗海に対する「例の攻勢」は 7月最初の金曜夜に実行する事を確認した。「まぁまず、どうやって昂(たかぶ)らせるかだよな」お気に入りの冷酒をあおりながら、黒木が言った。

存も盃を傾けながら「ハハ、やっぱり序盤の雰囲気作りは大事だよね」 黒木「そうそう。のっけから俺達の都合でさ『さぁ、竿(男根)だぞ~ッ!なんて露骨な出方なんか×(ペケ)だよな」 「当然です!もう言わずもがな。折角乗りかかった宥海(おねえ)さんとの仲を壊したくなかったら、そこは用心すべ~き!」 「心配有難と。いや分かる。そこは絶対滑らないからな!」 「その決意、持続させんといかんね。あの行為と一緒でさ」これを聞くと、兄は思わず苦笑した。

「いや、何度も考えたんだが・・」黒木が続けた。存「うんうん、聞いてるから続けて」 「やっぱり。あの深い行為になった時、序盤はこう・・中盤はこう・・終盤はこう・・なぁんて技や体位をどうするか予定するなんて、ちと無理だよな。やっぱ、成り行き次第って事で・・」 「まぁ、そんなとこやね。俺がホストやってた時の『余興』だって、相手の女性(おんなのひと)がああして欲しい、こうしたら良いなんて、その時にならなきゃ分からないなんて 結構あったからね」 「あぁ分かる。まぁ、そんなモンだろう・・」

9pm頃だろうか。そうこうする内、黒木のスマート・フォンに LINE着信。麗海からだ。「おい、存(タツ)・・」 「はい・・」 「何でだろ。麗海さんの LINE、俺の方に入ったぞ」 「あぁ、それも有りじゃないかな。麗海(かのじょ)も、例の行事(イヴェント)が来月初めの週末っての分かってるだろうから・・」聞いた黒木、黙って頷くと 着信文に目を通した。

「今晩は麗海です。恆(おにい)さん、元気してるかしら?」の挨拶に黒木「有難と。お蔭様でボツボツやらしてもらってますよ」の答礼。それに続き「来月初め、つまり来週末ね。存さんも一緒に会えるらしいから、楽しみにしてるわ」 「OKです。俺も存(タツ)も上手く行く様都合するから、期待してて」 「恆さん、それでね・・」 「はい、何ですかな?」

黒木の返事の直後、麗海の続きはちょっと厄介だった。「夜も皆一緒だろうけど、この前案内してもらった 貴方の伯父様のビルにあるモデル・ルームで高まりたいの。無理は承知だけど、そこんとこ 聞いてもらえないかしら?」 「あ、それかぁ。ちょっと待ってね・・」これは即答すべきでないと、些か頭の回転が鈍い黒木も それ位は直ぐ分かった。

彼はこう返した。「貴女の望みはよく分かる。つまり、いつもと違った空間で事を起こすとスリリングで好い感じって事だよね?」 「そうそう。特に貴方と存さんも一緒だから、きっと素敵な夜になると思うの。それでいつもと気分を変えたくてさ・・」 「希望は分かった。なるべく沿う様にするから、返事は来月初日の月曜で良い?多分 OKだけどさ」 「ふむ、まぁ良いでしょう。なるべく色好い返事をね。伯父様に対する政治力とかもあるだろうし・・」 

黒木「ハハ、まぁ努力しやしょう。それでね・・」 麗海「はい・・」 「ちょっと、モデル・ルームの入れ替えがあってさ。今の部屋は 俺の居るとこの直ぐ上だけど、それはよろしいか?」 「(少し間を置いて)まぁ、それは良いでしょう。貴方の部屋と間取りは同じだろうから、大体想像がつくしね・・」 「分りやした。じゃあ、明後日の 7月初日月曜、必ず返事するから・・」 「宜しくね・・」交信ここまで。

「どんな風やね?」訊く弟に、黒木は「いやいや、ちと厄介な事になったわ」と返し、「俺の部屋の上の、モデル・ルームでならやらしてやる・・だってよ」 「ハハ、少しスリルが欲しいんだな。で、応じたのか?」 「ま、そんな方向だ。一応保留だがね。でも、叔父貴とは上手く話をつけられるだろう。夜中までモデル・ルームが使える目途もつけてるし」 「了解。まぁ、上手くやってくれ」 「あぁ、必ず。所で・・」 「はい、何だろ?」 「居る間に、今度の金曜夜のこの店、予約しとくか・・」 「それ、良いね。3人だろ?」 「その通り!」

その 7月最初の金曜は、日中の雨も夕方には一旦上がり、夜の行動には好都合だった。7:30pmにいつもの金盛副都心某所で落ち合った夏の普段着姿の三人は、又馴染みの和食処で酒食の後、立ち入り叶った 黒木の居所直上のモデル・ルームへと流れ。実は彼、当日の日中に モデル・ルームのベッド・シーツを彼の部屋の一度使ったものに交換、室内での行為に備えていたのである。部屋に落ち着くと、まず麗海にシャワーを促す。彼女は応じ、少し素早く浴室へと消えた。中の音を確かめた黒木は「やっぱり」あの挙に出た。

「兄者、又『匂い』か・・?」些か呆れた様に弟が一瞥するも、兄は一向意にも介さない様子。そしてこれも予定通り、浴室前の麗海の脱衣に手を伸ばして「芳香」を愛でにかかる。淡色のロング・パンツだけは例外だったが。「あぁ、やっぱり 好い・・」しっかりと鼻を近づけ「芳香」の記憶を脳裏に焼き付けんと務める兄の姿は、些か愛想の尽きるレベルかも知れなかった。「ホント、もう立派な病気やな・・」眺める存は、改めて呆れた風情だった。

「そうは言われても・・」紺基調の 麗海の下着を愛で続ける黒木は呟く。「こればっかりは止められん。姉さんだろうが 妹だろうが、関係ない!」 「フン!」そのザマを見た存の呆れ具合は、増々高まって行った。「そこまで行きゃ、ほぼほぼ病気レベルだな。兄者、もしかして その『芳香』という事じゃ、まさか『女なら誰でも良い』て言うんじゃないだろうな?」 

「いや、まさか・・!」揶揄され一瞬我に返った兄は、ようやくの風情でこう返した。「そりゃ違う!俺の本命は、あくまで宥海(おねえ)さんだ。変化なし!」 「フフン、ならば良いが・・」そう応じた弟の語調には、まだかなりの訝りが残っている。「ねぇ存さん、一緒に入らない?」浴室からこだまする様に麗海の声が届いたのはその時だった。「兄者の匂いチェックを見ててもつまらん。ちょいと相手を・・」そう言った存は、黒木の眼前で脱衣を始めた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 成宮りか
今回の「音」リンク 「にじいろ」 by 絢香 (下記タイトルです)
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